知っておきたい民法改正の6つのポイント
- 2015/8/12
- diary
ついにあの民法が改正されるですと?
みなさんの日常の経済生活や家族関係などを規律する法律のことを民法といいます。市民社会における市民相互の関係を規律する私法の一般法というのが正確な定義です。物を買うのも、家を借りるのも、交通事故に遭ったときも、結婚・離婚も相続もこの法律により原則が定められています。
現行の民法が制定された1896年以来基本的には変わらずにあり続けた法律なのですが、ついに大改正がされることになりました。
日常を規律する大原則の法律がポンポンと変わっていては安定性を欠きますが、私たちのいまの日常と120年以上も昔の人々の日常とが同じであるとは言い難いでしょう。挙げ出すと切りがないですが、交通網の発達、電話やメールといった連絡手段の増加、パソコンを初めとしたネット環境の出現及びに発展、などなど。さらに、判例が出て、慣習が定着し、民法典の条文にはないが自明の理として扱われているルールもあります。これらに法律の方も対応すべきだということで行われるのが今回の大改正です。
改正内容としては、債権法の改正ということになります。民法は、債権法、物権法、家族法で構成されていますが、変わるのは債権法ということになります。突然、家族のあり方が変わったり、所有権に変更を来したりというようなことはありません。なので、今までのルールが180度変わるといった類のものではなく債権法という一部について整えるというものですから、過度に身構える必要はないといえます。
が、市民社会で生活する身として、また改正に関連するビジネスパーソンの方にとって今回の大改正の大枠は知っておく必要があるでしょう。
この大改正は2015年の国会で成立することが予定されていましたが、おそらく今国会での成立は難しく、来年の国会で成立したとして、2019年から施行されることになりそうです。まあそういうと結構先だなあという気もしなくはないですが、120年という年月と比べれば短いでしょうかね。
そんな民法改正ですが、改正点は多岐に渡りますので、ポイントを6つに絞って見ていきたいと思います。ただし、以下の改正は全てまだ施行されていません。例えば改正法がこうだからといって理由で時効が過ぎたツケを追求することは結果できないのでご注意ください。
ポイント1-消滅時効の統一(短期消滅時効の廃止)
よく言われる?のは飲み屋でのツケ債権ですが、現行法では、通常の10年という消滅時効とは別に、特定の債権についてはより短い消滅時効が定められています。上記ツケ債権は1年です。この短期消滅時効制度は3年、2年、1年と債権の種類ごとに定められていますが、なぜ○年なのか、なぜその種類なのか、ということを合理的に説明することができないと言われたりもしていました。これらの債権についてもこれ以外の債権についても全て「権利行使できるときから10年」と「権利行使できると知った時から5年」に統一するということにしました。
また、生命、身体を侵害したことによる損害賠償請求権も統一されることになります。現行法上では「損害及び加害者を知った時から3年」と「不法行為の時から20年」とされています。それが今回の改正により「損害及び加害者を知った時から5年」と「権利を行使できるときから10年」に変更されることになります。
ポイント2-法定利率の変更(固定制→変動制)
お金を借りたら返すときまでの期間に応じて利息を支払いますよね。銀行や消費者金融などから借りる場合はあらかじめ利息が定められています。これは約定利率というもので、当事者間で決めた利率で利息の支払額を決めることになります(利息制限法による制限はありますが)。では利率を定めなかったときはどうなるかというと、このとき用いられるのが法定利率です。
現在では法定利率は5%(商事は6%)とされています。これを全て統一して、法定利率は固定制ではなく変動制にして、まず3%にしようということになりました。3年ごとに1%刻みで見直すこととされています。
これにより最も影響があるのが交通事故などの損害賠償請求権、逸失利益や将来介護費といった損害項目の計算でしょう。これらの損害項目は、中間利息控除といって長い将来にわたって補償されるべき損害について利息運用できることを前提に損害額を割り引く(控除する)運用がされており、この中間利息には法定利率を用いるとされているからです。ただし、法定利率が変動制になると将来の法定利率がわからないので、この中間利息計算の法定利率については、損害賠償債権発生時(事故時)の法定利率を使うこととされていいます。
ポイント3-認知症の高齢者による契約は無効
明文規定はなかったのですが、これまでも当然の解釈として意思能力がない人による意思表示は無効であるといわれていました。どういうことかというと、認知症の高齢者でその物が欲しいかどうかなんてわかりっこないという状況の人が契約をしてもそんなの無効だよ、ということです。これを明文化してみなさんにもちゃんとわかってもらおうということで民法に書かれることになりました。何かが変わると言うことではないです。
ポイント4-「敷金」の法制化
家を貸したり借りたりした方であれば必ず目にしたことがあるであろう「敷金」ですが、これは民法に書かれてはいませんでした。そもそも敷金と呼ばれたり保証金と呼ばれたりその名前も地域などにより定かではないというのが実情です。そこで、何がいわゆる敷金にあたるのかを明確にし、敷金はどのように扱われるのか、そして原則退去時には返還しなければならない旨が法律で定められることになりました。
とはいえ、これはこれまでの判例法理が明文化されただけですから、何か取り扱いが変わるというわけではありません。敷金とは、「賃料債務その他の賃料債務に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」のことをいうことになります。そしてこれは退去時に経年劣化を除く原状回復費用を差し引いて返さなければならないと定められています。普通に使っていても劣化する部分については敷金からは差し引けませんよということです。
ポイント5-個人保証の制限
皆さん保証人になったりしていませんか?個人保証の危険性については主債務者が破産!保証人のあなたはどうなる?!を見ていただければと思いますが、とにかくいいことはありません。現在は、保証人になるのがあまりに簡単なので国側が法律でこれを制限しようということになりました。以前も部分的な民法改正で保証契約を締結するに際しては書面によらなければならないという改正があったのですが、より危険から守らなければならないということになったのです。
まず、ただ保証するというだけでは駄目で、この額までは保証するということをあらかじめ決めなければならないということになります。Aが負ったすべての債務を保証するなどの抽象的な内容では駄目です(額が不特定なものはだめということです。)。
次に、事業に関する保証について、締結の前1ヶ月以内に公正証書によらなければ保証契約を締結することができません。これによらずに保証人になれるのは取締役や事業者、事業に現に従事する主たる債務者の配偶者など一定の範囲に限られることになります。
ポイント6-欠陥品に対する対応
これまでは買った商品について欠陥があった場合、解除できるか損害賠償ができるか、でした。でもカメラを買って壊れていた場合、欲しいのはカメラの代金でもないし、契約をなかったことにしたいわけでもないですよね。
そこで、カメラが壊れていた場合、これらに加えて代金の減額を請求したり、代替物を追完するよう請求できることになります。壊れてるレベルが例えばカメラのボディ部分に破損があるが、写真を撮ることに関して何ら不都合はないといった場合には、まずは追完を求めてそれが不可能であったり断られたりした場合には安くして、といえるということになるということですね。