知っていますか?最高裁で違憲とされた10の法令

憲法違反の10の法令ご存知ですか?

裁判所は法律上の争訟について裁判する場所です。

通常は、事件に関連する法令を適用することにより解決を図ることになります。たとえば、交通事故があれば、加害者は刑事事件により刑罰適用に関する刑事裁判を行いますし、被害者は加害者に賠償しろと民事事件を提起することになります。この際、前者は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」を適用して、後者は主に民法709条以下に定められている不法行為責任の規定を適用して事件の解決を図ります。

しかし、そもそもその適用すべき法令自体が間違っている場合はどうすればいいでしょうか。

そんな法律おかしい!なんてことをただ単に述べても裁判所は聞いてくれません。どう間違っているのかを、法的に主張しなければなりません。その法律おかしいというための根拠は、「憲法」です。

そして、法律がおかしい、憲法に反しているという主張を判断する権利、いわゆる違憲審査権を持っているのは究極的には最高裁判所です(地方裁判所等がこの違憲審査権を持っていないというわけではないです。)。

ちなみに、この法律がおかしい!違憲だ!とだけ裁判所に言っても聞いてくれません。裁判所は、あくまで、争いごとを解決する中でその事件に関する法令が憲法に違反するかどうかを判断できるに過ぎません。ですので、おかしな法律を国会が改廃することなく放置した場合には、その法律おかしいだろと正面から主張するのではなく、その法律のせいで精神的損害を被ったなどとして国家賠償訴訟を提起することもになります。近年の法令違憲はこのパターンが多いです。

とはいえ、法律がおかしい!なんてことは早々あるものではありません。国民の代表である国会が法律を作るのですから、簡単になんでもかんでも間違ってるなんてことにはならないでしょうし、そうなってしまっては国会じゃなくて裁判所が法律作れよという話になってしまいかねません。国会議員は必ずしも憲法に精通しているわけではないですが、法律を作る過程には法律実務家や法律研究者が憲法に反しないことも考慮に入れて慎重に作り上げるので、おかしいなんてことはなかなかないのです。

早々あるものではないといっても、価値観は時代により変わっていくものです。日本にある法令も近時の違憲判断により10を数えるに至りました。簡単にですが、これらを見ていくことにしましょう。

 

刑事事件に関するもの

尊属殺人重罰規定(最大判昭和48.4.4)

刑法199条には殺人罪が規定されています。以前は、自己又は配偶者の直系尊属を殺した場合は、その刑罰が重くなる旨が刑法200条に規定されていました。今刑法200条を六法で引いても削除されています。なぜ削除されたのかというとこの規定が日本で初めて違憲と判断されたからです。

ただし、直系尊属を殺した場合のみ刑が重たいことが直ちに違憲とされたわけではありません。自己又は配偶者の直系尊属を殺した場合という類型自体を設けることやその場合に普通殺人よりも刑罰を重くすること自体は不合理な区別とはされませんでした。では何が問題だったかというと、尊属殺人の場合には、刑が死刑か無期懲役しかなくあまりにも重すぎるので、必要な限度を超えているとして不合理な区別であるとされたのです。つまり、尊属に対する尊重報恩という立法目的自体は憲法に反するものではないとの判断です。

実際、翌年に出された尊属傷害致死等罪については合憲判断がなされていることがその所作といえるでしょう。ただし、尊属傷害致死等罪についても現在は削除されています。

 

選挙に関するもの

衆議院議員定数配分規定その1(最大判昭和51.4.14)

選挙に関するもののうち議員定数配分規定の訴訟は今現在でもよくよく訴訟になる類型です。一人一票原則違反などといわれたりもします。公選法204条に衆議院議員ないしは参議院議員の選挙の効力に関する訴訟の規定がありあす。これにより、選挙訴訟は法律上の争訟にはあたりませんが、裁判所で争うことができるのです。

何が問題なのかというと、都市部などの人口多寡地域の国民の一票と地方の人口過少地域の国民の一票との価値が異なることから平等原則に反するというものです。100人の集団が2人を選ぶ場合の1人あたりの票価値を1とすると、200人の集団が2人を選ぶ場合は1人当たり0.5票分しか価値がありません。1:2の差があるということになります。地方に住んでいる人の方が投票価値があるというのは平等ではありませんよね。このようなことが衆議院選挙でなされれば、それは「違憲状態」で行われた選挙であるということになります。もっとも、違憲状態は法令違憲ではありません。この場合法令が違憲であるとされるには国会がこのような違憲状態を是正するための合理的期間が経過した場合にはじめて「違憲」になるとされています。

また、違憲に成ったとしても直ちに選挙がやり直されるわけではありません。「事情判決」というものがなされます(本来公選法の選挙訴訟は事情判決を排除しているのですが、公選法違反ではなく憲法違反の場合にはそれを定めた規定が適用されず事情判決をすることは許されると考えているようです。)。違憲であることを確認するにとどめることになりますので、国会に対する警告ということになります。

本件では約1:5の投票価値の差があり、合理的期間も経過したとして違憲、事情判決ということになりました。

 

衆議院議員定数配分規定その2(最大判昭和60.7.17)

9年後に再度衆議院議員定数配分規定は違憲である旨確認されています。問題となった58年12月施行の総選挙の投票価値の差は1:4.4でした。なお、合理的期間の経過はこの2つの違憲判断の間になされた昭和58年判決で問題となった55年6月施行の総選挙からカウントされていますので、そこから約3年でなされた選挙が違憲となっています。ただし、時間の長短ではなく、是正が何ら行われなかった点が重要視されています。

ちなみに、衆議院は1:3、参議院は1:6が最高裁のが一応の基準としているのではないかといわれていますが、1:2以内の格差に抑えるべきだとの主張もなされています。近時の選挙についてはおよそ合理的期間を経過してるか否かが争点になっています。

 

在外日本国民選挙権制限(最大判平成17.9.14)

選挙権は成年者である国民であれば基本的にすべからく選挙権又はその行使が保障されています。それは日本に住所を有さない日本国民(在外国民)であっても同じはずです。

しかし、当時在外国民の選挙権の行使を比例代表選出議員の選挙に限定する措置をとっていました。

最高裁はこの点について、自ら選挙の公正を害した者への制限は別として、国民の選挙権又はその行使を制限するには、その制限なしには公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であるとのやむを得ない事由が必要であるとして、在外国民の国政選挙への参加を上記のように制限する措置には、このような事由があるとはいえないとしました。現在では在外選挙人名簿に登録することにより国政選挙における選挙権の行使が可能となっています。なお、在外選挙人名簿に登録しなければ投票することができないという制限については、判例はありませんが上記のやむを得ない事由ありとして認められるかと思います。

 

財産に関するもの

森林法共有林分割規定(最大判昭和62.4.22)

当時、森林を共有している場合、自己の共有持ち分価格が2分の1以下の共有者から共有状態を解消して単独所有とするための分割請求をすることは森林法により認められていませんでした。もっとも、所有の原則形態は単独所有であって共有は例外形態ともいえますから、これが制限されることは財産権の侵害として憲法29条2項に違反するとしています。現在では森林の分割請求を持ち分価格が2分の1以下の場合でもすることができます。

といっても、森林を所有している人は少ないでしょうし、詳細は割愛しますね。

 

薬局距離制限規定(最大判昭和50.4.30)

これも薬局を設置するにあたっての許可要件の問題ですからほとんどの方は関係ないでしょう。

薬局は今現在も勝手に設置することはできません。そして、当時は既存の薬局と一定距離を保つことが許可の要件となっていました。この要件が「職業の自由」を侵害するものとして憲法22条1項に反するとして違憲と判断されました。今現在は一定距離を保つことは要件とされていません。他にも、許可制にすること自体や構造設備、資格要件なども争われましたが、不良医薬品の供給の防止の目的に直結するものとして合憲とされていました。

 

郵便法免責規定(最大判平成14.9.11)

財産に関するもののなかでは一番関係のある方が多い違憲判決かもしれません。郵便物が壊れていたり、誤った場所に送られてしまったりと郵便物に関するトラブルは意外とあります。そして、当時郵便局は公営でしたから、郵便物に関するトラブルの損害賠償請求は日本郵政公社に対してなされるのではなく、国に対して国会賠償請求をしなければならなかったのです。もっとも、当時の郵便法は国家賠償請求ができる場合を3つの類型のみに限定していました。そして、争いとなったのは「書留とした郵便物の全部または一部を失亡し、又はき損したとき」に国家賠償請求を限定している規定でした。事件自体は誤配達の事案だったので失亡又はき損に当たらず郵便法通りに行けば国家賠償請求できないというものです。

郵便法が国家賠償請求ができる場合を限定していたのは、「郵便官署は、限られた人員と費用の制約の中で、日々大量に取り扱う郵便物を、送達距離の長短、交通手段の地域差にかかわらず、円滑迅速に、しかも、なるべく安い料金で、あまねく、公平に処理することが要請されている」からであって、これ自体の正当性は最高裁も認めています。しかし、故意又は重過失による場合にはもはや通常の職務規範に従って業務執行がなされているとはいえないことから、「免責」は行き過ぎであり違憲であると判断したのです。もっとも、軽過失に過ぎない場合であれば免責することも行き過ぎとはいえないことから、故意または重過失がある場合であれば国家賠償請求し得るという判断に至ったのです。

現在は民営化されていますが、郵便法自体は効力があります。そして、この違憲判決に従って、配達員の故意または重過失がある場合は損害賠償請求できる旨が定められています。また、方法は国家賠償請求ではなく民法の不法行為に基づく損害賠償請求を日本郵政株式会社に対してすることになります。

 

身分・家族に関するもの

3連続で法令違憲が認められているのがこの身分や家族に関する分野です。そして3つのうち2つは非嫡出子に関するものです。

嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子のことをいいます。つまり、非嫡出子は法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子、ということになります。誤解があるようですが、いわゆる愛人、不倫関係にある女性との間の子という場合に限りません。内縁関係にある男女の間に生まれた子も非嫡出子になります。できちゃった婚の場合の子供(厳格には婚姻から200日以内に生まれた子)は、嫡出子としての「推定」が及ばないだけで、嫡出子として夫の戸籍に入ることができます。非嫡出子であることによる実際上の弊害は以下の2つでしたが、これが両方違憲となったので今現在は非嫡出子による弊害は法律上は存在しないと言っていいのではないでしょうか。

 

非嫡出子の国籍取得制限(最大判平成20.6.4)

国際結婚が昔と比べればそんなに珍しくない世の中になってきたのではないでしょうか。

そんな中、日本人の父と外国人の母との間の非嫡出子であって、生後認知された場合にはその子は父母の婚姻がない場合には届け出ても日本国籍を取得することができないとされていたのです。つまり、日本人の父が自分の子供だと認知しても日本国籍は取得できないとされていました。

とはいえ、両親が結婚しさえすれば届出により日本国籍を取得できるわけですし、結婚していない場合でも胎児の間に認知を受ければ出生により日本国籍を取得できるのですから、この場合だけ除外することには理由がありません。むしろ、これは差別的取り扱いとすらいえます。そこで、このような規定ぶりは不合理な区別として差別であると認定され憲法14条1項に違反し違憲であるとされたのです。

そもそも、子どもとしましては自分からはどうすることもできない理由(親が結婚するか、どのタイミングで認知するかなど)で区別されているのですから納得はいきませんよね。

現在では、「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子」という文言は「父又は母が認知した子」に変更されましたので、両親が結婚しておらず、出生までに認知されなかったとしても届出により日本国籍を取得することができます。もちろん、他の「20歳未満であること」、「日本国民であったことがないこと」、「出生したときに、認知をした父又は母が日本国民であったこと」、「認知をした父又は母が現に(死亡している場合には、死亡した時に)日本国民であること」といった要件は満たさなければなりません。

国籍取得を悪用するやつがいるかもしれないじゃないか、という場合もあり得ますがこれに対しては罰則がありますのでこれを理由に上記の最高裁の判断がおかしいということにはならないでしょう。

改正について詳しく知りたいという方は法務省のホームページをご覧ください。

 

非嫡出子の法定相続分制限(最大判平成25.9.4)

認知された非嫡出子の相続分は、非嫡出子の相続分の2分の1である。民法上このように記載されていました。もちろん、遺言によって相続分は変更できますから、問題となるのは遺言がない場合です。平成7年に最高裁はこの点(遺言でどうにでもできるじゃないかということ)を理由のひとつとしてこの規定を合憲と判断していました。

もっとも、平成25年に最高裁はこの理由の点を否定しています。

むしろ遺言で変更できるなら原則平等とすることも何ら不合理ではないと判断しました。そして、「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる」として、「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである」と判断したのです。ただし、法的安定性の見地から、既に行われた遺産の分割等の効力には影響しないとしますので、過去の分を掘り起こして修正することはできません。

今後は嫡出子であろうと非嫡出子であろうと被相続人の子である限りはひとりの「子」として相続人になります。

愛人の子と正妻の子を同等に扱うなんて家制度の崩壊だなんて意見が国会議員からあったようですが、見当違いの意見です。そもそも本件で差別を受けるのは愛人の子に限られません。内縁夫婦の子が生まれた後、内縁関係が解消され結婚して子供が生まれた場合、両者は相続分に差異が生じることになります。他にも、前婚で離婚に応じてくれず籍だけが残った状態が継続しているなか、致し方なく後婚ができず後婚の子供が生まれ、前婚の離婚が成立した後にさらにもう1人後婚の子供が生まれた場合、同じ親の兄弟でも相続分に違いが生じます(1人目の子は前婚の相手方との嫡出子とは成り得ても、後婚の相手方との嫡出子とは成り得ません)。

民法900条4号は「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」と規定されていましたが、下線部は削除されています。

ちなみに、この違憲判決がでる前に、ちょうど非嫡出子の方からそうぞくぶんが2分の1であることについて納得がいかないという相談を受けて家庭裁判所で審判を求めていました。最高裁まで行く覚悟のある依頼者だったので、私もやる気満々だったのですが、その審判の最中に最高裁が判断を出すことがわかり、この判断を待ちましょうということになったのが思い出深いです。

もちろん、この最高裁の判断を受けて、裁判所から平等に分配すべきという勧告もあり、和解で解決することができました。

 

女性の再婚禁止期間規定(最大判平成27.12.16)

現行民法では、女性の再婚禁止期間は離婚してから6ヶ月とされていますが、これについては6か月というのは不必要な長さであり不合理とうことで違憲とされました。2015年12月現在法律の規定も6ヶ月とされていますが、この最高裁の判断を受けて、法務省の通達により再婚禁止期間を100日とする取り扱いがなされているようです。

この判決については、別途記事にしましたので、詳しくはこちらをご覧ください。

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