借金と親子~子供に返済義務はあるの?
- 2016/1/14
- 債務整理
親の借金を子供はどうすべき?
親子の関係にもいろいろな関係があります。なかには借金に苦しむご両親をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。子供からすれば、親の借金だし関係ない、という方もいれば、親の責任は子が償うべき、という方もいらっしゃるかと思います。どうするかはご自身の道徳観によるべきですが、行動する前に、法的にはどうなっているのかを知ったうえで返すかどうかを考えて頂きたいと思います。
借金と扶養義務
民法730条に「親族間の扶け合い」というものがあり、「直系血族及び同居の親族は、互いに扶(たす)け合わなければならない。」と規定されています。そして、民法877条1項にて「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」として、扶養義務を定めています。
まず、扶養とは「自分の資産、労力で生活することのできない者に経済的な援助を与えること」をいいます。
直系血族とは家系図を書いた際に上下の関係にある者のことですから、曾祖父母、祖父母、父母、子、孫などがこれに当たります。そして、「互いに」とあることからもわかるように、親の子に対する扶養義務のみならず、子の親に対する扶養義務も含まれています。また、字面からすれば「義務」とあるように、必ず扶養しなければならないようにも思えますが、少なくとも子の親に対する扶養義務は自らの社会的身分にふさわしい生活をしてなお余力がある限りにおいて負うことに過ぎません。扶養するかどうか、またその内容は親子で協議して決めることになりますが、協議が整わない場合は家庭裁判所に審判を申し立てることになります。
扶養義務について簡単にみましたが、じゃあやっぱり親の借金は子供が返すべきなの?というと、そうではありません。
借金と扶養は別問題です。
借金は借りた人と貸した人との間の契約ですから、法的にみれば契約当事者ではない子供に返済義務は全くありません。貸した人から親の借金なんだから支払ってと言われたとしても法律上返済する義務はないということになります。扶養義務があるんだから返せというのも法律上何らの理由がありません。
法律上親の借金を返さなければならない場合
以上のように、親の借金を子供が返す必要はありません。とはいえ、場合によっては返さなければならない場合もあり得ます。
ひとつは、親が亡くなって子が相続した場合です。相続と言うと親の財産を引き継ぐことをイメージされるかもしれませんが、借金などの債務も引き継ぐことになります。相続によって、あなたは親の借金について当事者になってしまうのです。
もちろん、借金があっても財産の方が多いのであれば相続して問題ないでしょう。しかし、相続した結果マイナスになるのは避けたいところです。マイナスになりそうであれば、相続放棄や限定承認といった制度のご利用を検討しましょう。詳しくは「亡くなった父の借金をどうすれば?―相続放棄と限定承認」をご覧ください。
もうひとつは、あなたが保証人になっているケースです。保証人になってしまえば、借金を返さざるを得ないということになります。この場合は子供であるから返さなければならないのではなく、保証人という立場になったから返さなければならないのです。子供が所有する不動産に担保権が設定されている場合には、担保権の種類にもよりますが、結論としては当該不動産の価格分だけ支払義務が生じることになります。ただし、保証人になることにはなんらメリットがないので避けるべきでしょう。詳しくは破産についての記事ですが「主債務者が破産!保証人のあなたはどうなる?!」をご覧ください。
身に覚えのない自分名義の借金・保証
保証人だから返せと貸主から言われたけれど、言われた時になって初めて自分が保証人になっていることに気付いたという場合もなくはありません。このような場合はどうなるのでしょうか?
身に覚えなく借金をしていたり、保証人になっていたりすることがあります。
まず身に覚えがなければ絶対に支払わないことです。何となく支払ったりすれば法律上追認したとか第三者弁済をしたということで有効に支払いがされたと認定される(=返せといえなくなる)可能性があります。身に覚えがないなら支払わないに越したことはありません。
自分の知らぬところで借用書や保証書が作成されていた場合、法律的には、あなたが契約したことにはなりません(当然ですね)。
とはいえ、署名があり押印もされていた場合などは最悪裁判で争うことになりかねません。借金の場合は契約書があることが契約の成立要件ではなく、あくまで契約締結を証明するための証拠に過ぎないのですが、通常は契約書があれば契約しただろうとなるわけです。そこで、署名押印が自らのものではないとして契約書がニセモノであると争うことにより借金した契約の存在を否定するしかありません。
一方、保証契約は、保証書等の書面があることが保証契約の要件のひとつとされていますが、これだけでは保証契約があったことになるわけではありません。もっとも、この場合も、保証書があれば通常は保証契約を締結しただろうとなるので、借金の場合と同様裁判で争うことになるでしょう。もちろん、裁判になる前に当事者で話合いにより解決に至ることが一番ですが、相手方としても少しでも請求できる可能性がある以上折れることは考えにくいのではないでしょうか。
何はともあれ払う必要が法律上はないとはいえ、契約書を偽装したのが親であれば、親は借金返済の義務だけではなく債権者から刑事責任を問われかねません。もちろん、親が即座に返せばその可能性は低くなりますが、わざわざ偽装してまで借金するほどですから財政状況は厳しいことがほとんどです。親が刑事責任を問われるようなことをしたことは事実であり知ったこっちゃないとも言えなくはないですが、さすがにそれはと考えるのではないでしょうか。払えるのであれば一度払ってあげて、今後親に少しずつ返済してもらうなどの話合いを持つこともありえます。
未成年時になされた場合は?
子供が未成年の時に親が勝手に子供名義で借金をしたり保証人にしたりしていた場合はやや複雑な法律問題が生じます。
というのも、未成年の子は親の親権に服するのですが、この場合親は子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその後を代表するという規定があるからです。つまり、子が未成年であれば親権を理由に親が勝手に代理して借金することも字面的には大丈夫なように考えられなくはないからです。そして、親権代理として子供名義で契約を締結することはできますから、裁判になって自分の署名や押印でないとは争えないことになります。
しかし、あまり無制限に、たとえば親が親の利益のために勝手に子の名義で借金を負うのは勘弁しれくれという子がほとんどでしょう。
まず、親と子との利益が相反する行為を行うには特別代理人を定めなければならず、これを定めることなく行った場合には無権代理行為として子供に借金と言う効果は帰属しません。
したがって、このような場合には、利益相反行為だ、と主張して交渉するなり裁判で争うことになります。
親の借金について保証人にされたり子供が所有する不動産に抵当権を設定されたりといった場合は、一部例外的なケースは判例上ありますが、基本的には利益相反行為にあたるでしょう。
他方で、利益が相反するかどうかはその意図は考慮されることなく外形的客観的に決められますから、子供名義で借金することは利益相反行為にあたらないといえるでしょう。あくまで、子供が借金をするのですから、実際は親が着服していたとしても外形的客観的には利益は相反していないということになります。
そこで、親が代理権を濫用したんだと主張することになるでしょうが、判例上かなり限定的にしかこの主張は認められないとされています。
こういう場合の争い方としては、たとえば消滅時効を援用できることも多いのですが、いずれにしてもまずは一度弁護士に相談することをお勧めします。