ギャンブルや浪費が原因でも破産免責は意外とできる?
- 2015/9/9
- 債務整理
破産と免責について
破産制度の目的は、債務者の経済的に立ち直らせる点にあります。債務を弁済する義務が残ったままでは、経済的に立ち直らせることはできないため、一旦全ての財産を整理して可能な限りの弁済をさせた上で残りの債務については弁済する義務から解放するというのが破産免責制度です。財産を整理して可能な限りの弁済を債権者間の公平を維持しながら行うことが破産制度、その後の弁済義務を解放するのが免責制度だと思ってもらえればいいかと思います。
ですので、免責がされなかった場合には、債権者は配当によっても弁済を受けられなかった残額について、破産手続の終結後も破産者の責任を追及できることになりますので、破産者にとっては免責されるか否かというのが重大な問題ということになります。
破産免責により借りたお金を払わなくてよくなるということですから、債権者からすれば「そんなのあり!?」って感じですよね。実際、過去には破産面積制度が債権者の財産権を侵害する憲法違反の制度ではないかということが裁判で争われましたりもしましたが、憲法に反するとはしませんでした(最大決昭和36.12.13民集15.11.2803)。
破産手続から免責手続の流れですが、破産手続開始の申立てがなされれば免責許可の申し立てもしたものとみなされるというふうに法律上定められていますので、破産手続と免責手続はほぼ一体となっています(一応、分けられてはいます。)。
破産申立があると、強制執行等の個別執行は禁止され、全債権者がそれぞれの債権額について公平な配当を受けることになります。ただし、破産者に配当に回せる財産がないことが明らかな場合には、破産申立と同時に破産手続は終了(同時廃止)、免責手続に移行します。
免責されない?免責不許可事由という壁
破産者を免責してもいいかどうかという調査・報告を経た後、裁判所によって免責許否の裁判がなされることになります。方式としては、期日方式と書面方式がありますが、実務上書面による方法が通常となっています。また、免責拒否の判断に当たっては、これこれこういう事由があったら免責を許可するという方法で判断するのではなく、これこれこういう事由があったら免責を不許可とするという方法で判断しています。この事由のことを免責不許可事由といいます。
免責不許可事由としてよく言われるのが、債務者がギャンブルや浪費によって借金まみれになったような場合です。たしかに、ギャンブルや浪費は免責不許可事由にあたるということになります。
そのほか免責不許可事由については以下のように定められています(ギャンブルや浪費について➃に該当しますね。)。
①不当な破産財団価値減少行為 | 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと |
②不当な債務負担行為 | 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと |
③不当な偏頗行為 | 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はsの方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものとしたこと |
④浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと | 浪費とは支出の程度が社会的許容範囲を逸脱する行為、つまり、破産者の収入、資産に対比して必要かつ通常の程度を超えた不相応な支出行為のこと 賭博その他射幸行為とはギャンブル、パチンコなどのこと |
⑤詐術による信用取引 | 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いた信用取引により財産を取得したこと |
⑥帳簿隠滅等の行為 | 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠避し、偽造し、又は変造したこと |
⑦虚偽の債権者名簿を提出したこと | 破産債権者を害する目的で債権者名を秘匿したり、架空の債権者名を記載するなど、債権者名簿自体が虚偽であること |
⑧調査協力義務違反行為 | 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと |
⑨管財業務妨害行為 | 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと |
⑩7年以内の免責の既取得 | 破産免責許可の決定が確定したこと、給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと、民事再生法上の免責決定という3つの免責が7年以内にあること |
⑪破産法上の義務違反行為 | 破産に関し必要な説明、重要財産開示義務、免責についての調査及び報告についての義務その他破産法上に定める義務に違反したこと |
免責不許可事由があっても免責されるの?
このように、免責不許可事由は、浪費や再度の免責など免責するにはあまりにも債務者側の責任が重いというような事態を想定しています。破産者が「また破産免責してもらえばいいや」と思ってしまっては、経済的な立ち直りにとってもマイナスでしょうから、上記のような免責不許可事由があることは必要でしょう。
とはいえ、免責されなければ、破産者の経済的更正を図ることは不可能です。また、破産に至る原因としてパチンコや競馬などのギャンブルや浪費が原因の一つであることはよくあることです。最近ではオンラインゲームやソーシャルゲームなどに課金しすぎてしまったことが原因という場合も増えています。
これらの場合を全て免責不許可にしてしまうと、破産者の多くが免責されないことになってしまい、破産免責制度の「破産者の経済的な立ち直り」という目的が達成できなくなってしまう可能性があります。
そこで用意されているのが、裁量免責という制度です。裁量免責とは、いずれかの免責不許可事由があっても、裁判所が相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができるというものです。
実際、ほとんど免責されますので、ギャンブルや浪費をしたから破産免責されないなど諦めずに、借金が膨らみ苦しんでいる方は、まずは弁護士に相談されるのがよいでしょう。
では、ほとんど免責されるにもかかわらず、免責されない場合はどのような場合でしょうか。この点について、東京地決平成24.8.8判時2164.112は破産者の免責を不許可としています。この事例は、破産者が著しい⑧管財業務妨害行為を行い、破産手続開始から廃止決定まで4年弱もの期間を要したことや、10億超の巨額の債務に対して配当は一切なされないというようかなりイレギュラーなケースです。
他に裁量免責をしなかった事例としては仙台高決平成4.5.7判タ806.218があります。以下抜粋します。
破産者「は接客業に従事していたこともあって洋服を新調する必要があったことなど斟酌すべき事情も存することが認められるけれども、」破産者「は、割賦金の弁済も借入しなければできない状態になってからも洋服を購入し、結局・・・約六〇着もの洋服を購入して六四四万円もの債務を負って返済不能に陥り、債権者に多大な損害を与えたものであるから、裁量によって免責するのも相当ではない。」
この破産者は昼夜働いており、夜はスナックでアルバイトをし接客業に従事ていたことから洋服の新調が必要であったのでそもそもこの洋服の購入が浪費ではない旨を主張していましたが、認められなかったということになります。このケースでは、破産することが考えられる状態であるにも関わらず浪費を続けたことによってクレジット会社等の破産債権者に多大な損害を生じさせたという点が問題であったのだと思います。
裁量免責が認められなかった事例を見てきましたが、前述の通り、破産申立の際にきちんと対応すればほぼ免責は認められています。裁量免責が認められた事例として東京高決平成8.2.7判時1563.114を見ておきましょう。株式投資で生じた損失を株式投資で取り返そうとしたことは浪費行為にあたるとしたうえで、以下の理由で裁量免責を認めました。
破産者「が債権者に与えた実害は、必ずしも小さいとはいえないものの、[1]抗告人が債務を支払うために株式投資を始めたことは、・・・債務の堅実な返済手段とはいえないが、当時のいわゆるバブル経済の渦中にあっては、」破産者「のように株式投資に走ったことも無理からぬ面があるといえること、[2]」破産者「の株式投資が行き詰まったのは、平成二年の株式暴落が直接の原因であって、その責めを」破産者「のみに帰することはできないこと、[3]」破産者「は、退職して退職金を債務の返済に充てたほか、その自宅を売却してその代金を債務の支払に充てるなどそれなりに誠実に債務の支払に努めてきたこと、[4]」破産者は、破産者「を援助してきた父が死亡し、妻とも離婚するなどして、親戚等から経済的援助を受ける見込みが少ない上に、重度の身体障害者である母を扶養せざるを得ない立場にあること、などの諸事情を考慮すると、」破産者の免責を認めて」破産者「の経済的更生を図るのが相当である。」
バブル経済期という特殊性はありますが、誠実に債務を弁済してきたことや現在の経済状況なども考慮している点がポイントでしょう。このような形で裁量免責が認められることが多い状況といえます。
免責されても免責されない?非免責債権という強い債権
無事に免責されて、明日から新たな生活といきたいところですが、どんなに頑張っても免責されない債権というものが破産法上定められています。つまり、破産免責された後も支払続けなければならない債務があるということです。これを非免責債権と呼びまして、以下のものがこれにあたります。
①租税等の請求権
②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
破産者が悪意で加えた損害賠償請求権は、加害者への制裁という観点から非免責債権とされています。ここでいう悪意とは、積極的害意のことであるといわれています。つまり、不法行為をやろうと思ってやったというだけでは足りず、他人を害する積極的な意欲があることをいいます。
③破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(②の請求権を除く)
人の生命・身体というものの大切さに考慮して非免責債権とされています。この点交通事故等で負っている相手方への損害賠償債務については、重大な過失が認定されない限りは免責されるということになります。
④婚姻関係の義務に係る請求権
破産者が扶養者・養育者として負担すべき夫婦間の協力および扶助の義務、婚姻費用分担義務、子の監護に関する義務、扶養義務およびこれらの義務に類する義務であって契約に基づくものは非免責債権とされています。
⑤雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始決定の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く)
⑦罰金等の請求権
②以下については、その債権の性質上、強く保護すべきという価値観が働いているのも共感できる方が多いのではないでしょうか。税金も、もちろん重要ですけどね!