同じ人の同じ後遺障害等級でも、賠償額が違うって話
- 2015/9/13
- 交通事故
損害賠償額(示談金)は等級で変わる!
交通事故の損害賠償額(示談金)は、後遺障害等級が取れるか否かで大きく変わります。正確にいえば、後遺障害等級が何級であるのかによっても大きく変わります。
たとえば、主婦の方が追突でむち打ちになり6ヶ月一生懸命通院した場合、認定された後遺障害等級が、非該当だったとき、14級だったとき、12級だったときの賠償額(示談金)の目安は、おおよそですが次のとおりです。
非該当・・・130万円前後
14級・・・300万円前後
12級・・・800万円前後
全然違いますよね。このように等級が違えば損害賠償の額(示談金)が違うというのは分かりやすいところです。しかし、同じ等級であっても、実は損害賠償の額(示談金)が違うことがありますので、今日はこれを見ていきましょう。
同じ等級でもこんなに違う賠償額(示談金)
同じ等級でも賠償額(示談金)が違ってくる例として一番分かりやすく実際にも多いのが12級ですので、ここでは12級について見ていきたいと思います。
たとえば、同じ12級でも、痛みなどの神経症状を評価した12級なのか、関節可動域などの機能障害を評価した12級なのか、外貌醜状などの外観変化を評価した12級なのか、これは等級上は同じでも厳密には違う認定をしているのです。
神経症状の12級
神経症状の12級は12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」という評価です。
たとえば40歳の主婦の方で過失相殺がない場合を想定すると、賠償額(示談金)の目安は上記のとおり800万円前後になります。ただし、むち打ち症状ではない骨折後の12級13号認定である場合などは、もう少し損害額(示談金)は高くなります。
関節可動域制限の12級
関節可動域制限の12級の代表的なものは、肩・腕・手首の関節可動域についての12級6号や、股・膝・足首の関節可動域についての12級7号であり、いずれも「3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」と評価されるものです。
同じく40歳の主婦の方で過失相殺がない場合を想定すると、賠償額(示談金)の目安は、1200万円前後です。
外貌醜状の12級
外貌醜状の12級というのは、要するに顔に傷痕が残ってしまったということで、顔に3センチ以上の線状痕や10円玉大の瘢痕が残ると「外貌に醜状を残すもの」として12級14号と認定されます。
同じく40歳の主婦の方で過失相殺がない場合を想定すると、賠償額(示談金)の目安は、500万円前後です。
嗅覚・味覚脱失の12級
嗅覚や味覚を失った場合も12級という認定がされます。
同じく40歳の主婦の方で過失相殺がない場合を想定すると、賠償額(示談金)の目安は、800万円前後です。神経症状の場合と同じ結論ですが、結論に至る判断過程は異なります。
同じ等級でも賠償額(示談金)が異なる理由は逸失利益の認定にあり!
どうして、同じ等級で賠償額が異なるかというと、主な原因は、逸失利益の算定にあります。
逸失利益というのは、後遺障害の程度によって将来得られたはずなのに後遺障害が残ったことで得られなくなった利益を算出する損害費目です。ちょっと専門チックになりますが、この逸失利益の算出方法については、最高裁判所の公式見解は差額説と呼ばれる交通事故前の収入と交通事故後の収入を比較して減収している分を損害として算出するという立場なのですが、実際には、労働能力喪失説という見解にかなり近づいています。
労働能力喪失説とは、必ずしも現実の収入減がなくとも、後遺障害が残っているということはその人の労働能力が一定程度失われたと擬制して逸失利益を算出する立場です。
実務はどちらかというと、この労働能力喪失説に差額説的発想を組み込んでおり、原則として次のような計算式を使います。
「逸失利益」=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間」
労働能力喪失期間については中間利息控除に関するライプニッツ係数というややこしい話があるのですが、それはまたいずれの機会に話すとして、ここで問題になるのは、同じ後遺障害等級であっても、労働能力喪失期間や労働能力喪失率が変わってくる場合があるということです。
同じ等級だけど労働能力喪失率が違う
まず、労働能力喪失率は、原則として等級に応じて決まってきます。
たとえば14級だと5%、13級だと9%、12級だと14%などのように順次、労働能力喪失率は上昇していき、3級以上では労働能力は100%喪失しているとされます。
しかし、同じ等級であっても、たとえば関節可動域制限の12級と外貌醜状の12級では、労働能力喪失率は異なってくると考えられています。
極端な比較でいえば、前者は原則とおり14%だが、後者についてはそもそも労働能力とは何の関係もないから0%でしょという主張が平気で加害者や損保会社側からされることがあるのです。
外貌醜状については、せっかく12級の認定を受けても「逸失利益なし」という結果になることもありえるわけです(ここは被害者側代理人の腕の見せどころというか頑張りどころというか、そういうところです。)。なお、逸失利益無しとなってもやむを得ない場合には、逸失利益なしだが慰謝料を一定程度増額するといった措置が採られることもあります。
また、味覚や嗅覚の喪失についても、12級が認定されたとしても普通の仕事には影響がないということで労働能力喪失率が0又は14%未満の認定となることが多いです。ただし、主婦の方や味覚や嗅覚を使う仕事についている方の場合は、14%かそれに近い喪失率が認定されることになります。
同じ等級だけど労働能力喪失期間が違う
労働能力喪失期間は、原則として働きうる期間全部とされ、裁判所は現状、67歳までか症状固定時の平均余命の半分までの長い方を労働能力喪失期間と認めています。67歳を超えていて働いている方の場合には、当然ですが後者となります。
しかし、同じ等級でも原則通りの労働能力喪失期間が認められる場合と、それよりも短い期間しか労働能力喪失期間が認められないケースがあります。
たとえば、むち打ちで12級13号という神経症状についての後遺障害等級が認定されても、基本的には労働能力喪失期間は10年しか認められません。他方で、関節可動域制限の12級の場合には、原則通りの労働能力喪失期間が認められるのが通常です。
このように、同じ等級であっても、どういった症状を評価して認定されているかまでしっかりと判断しなければ、逸失利益の算定を正確に行うことができませんので、後遺障害等級の認定を受けた方は、是非油断せずにその点にも着目してほしいと思います。