店子が失踪・・・知っておきたい明渡しの手順
- 2015/8/18
- 不動産関係
ダメ!自力執行!
建物の明渡しを求める際に、貸し主の方が絶対にやってはならないことがあります。それは、いわゆる自力救済(自力執行)と呼ばれるもので、賃貸物件に入居者には無断で立ち入り、家財道具等を搬出して強制的に立ち退きを求めたり立ち退かせてしまうことです。
また、鍵を勝手に変えて入居者の入室を物理的に拒むことも同様です。
このような場合、貸主側が民事上の損害賠償義務を負うだけでなく、ケースによっては住居侵入罪、器物損壊罪、窃盗罪等の刑事責任を問われることがあります。
貸主の方からすれば、自らが所有する建物に立ち入り、そこにある物を外に出しただけでなぜこちらが責められなければならないのかといった言い分もあるかとは思います。また、このような事態が発生したのはそもそも貸主側に問題があるからであって(賃料未払い等)、こちらが何か言われるいわれはないという言い分もあるでしょう。しかし、これらの言い分はすべて認められません。
正当な権利といえども、強制的に実現するには、正当な手続でやれ、というのが法の立場なのです。
貸主と借主が一度賃貸借契約を締結すると、貸主は当該建物を占有し居住する権利を有することになります。そして、そこに居住すれば出て行くのにも相応の準備が必要な上、適当な転居先が見つかれるとも限りません。そこで、借地借家法などによってこの借主側の権利を厚く保護しており、たとえ貸主側が解約したくても簡単にはできないような規律となっています。
このような趣旨や規律を無視して貸主の自力により立ち退かせて借主の居所を失わせるようなことが認められてしまっては、借主の居住する権利がないがしろになってしまいます。また、居室内にある物の所有権は借主であって貸主は何らの権利も有していません。さらに、居室には貸主のプライバシーがありますので、無断で立ち入ればこれも侵害することになります。
そのような理由から、貸主を立ち退かせたければ、そのものの同意を得るか法律上定められた手続を踏まない限り、借主の居住権には勝てないということになります。自力救済ができないとはいえ、立ち退かせることができないわけではありません。法律上認められている手続によって立ち退きを求めていきましょう。
そこで、建物明け渡しの手順について見ていきたいと思います。
正しい建物明渡しの手順
任意交渉
まずは、互いに話し合いで建物を明け渡すように交渉することがスタート段階になります。たとえば、賃料不払いのケースであれば内容証明郵便で支払の催告を行い、その後解除通知を送付して賃貸借契約を解消します。もっとも、借主が失踪していないのであれば交渉のしようがありません。以下の法的手続を進めていきましょう。
訴訟手続
任意交渉がうまくいかなかった場合や、借主が失踪するなど任意交渉が功を奏さない場合には訴訟を提起して明渡しを求めていくことになります。賃料が不払いになっていれば不払い分についても請求しましょう。
強制執行
建物を明け渡すよう判決が確定した後は、これにより借主が任意で明け渡すようであれば、この明渡しを受ければよいのですが、なお明け渡さなければ強制執行をすることになります。また、借主が失踪していればそもそも任意による明渡しは期待できないのですぐに強制執行をしていきましょう。
強制執行の申し立ては裁判所の執行官に対して行います。申し立て後執行官からの明け渡すように催告がなされ、その1ヶ月後には執行補助者と呼ばれる人たちの手により建物内の荷物を運び出して貸主に建物が明け渡されます。この強制執行手続も裁判所側が用意した執行補助者の手により行われるのであって、あくまで貸主本人が行動するのではありません。
店子失踪から建物明渡しまでかかる時間と費用
時間について
本来貸しに出している建物については月ごとにいわゆる家賃収入が入るはずだったのに借主が賃料を支払わずに失踪すればその期間の家賃収入は失われます。つまり、自力救済はできないのだから法定手続を待つしかないのですがその期間が長引けば長引くほどお金は入ってこないのです(もちろん、この間の賃料については失踪した借主が負担すべきものですので、これを借主に請求はしますが、実効性があるかは事案によるということになります。)。
したがって、どれくらい時間がかかるのかというのは建物明け渡しトラブルにあたっては非常に気になるところだと思います。
結論から言えば、弁護士に相談・依頼することを前提として考えると最短で4ヶ月超になるかと思います。もちろん裁判にかかる時間については事案により、これよりかかる場合も当然にあります。あくまで目安として考えてください。
かかる期間の詳細についてみますと、まず、訴訟提起に至るまでの任意交渉や準備に1ヶ月ほど必要となります。訴訟提起後、法律上の問題点の少ない案件であれば期日も少ないので2ヶ月程度となります。勝訴後すぐに強制執行を申し立てた場合であっても、執行官が相手方に催告するまでに2週間かかります。執行官の催告から実行されるまでは約1ヶ月弱かかります。
費用について
強制執行は行うこと自体は引っ越しと同様です。しかし、通常の引っ越しよりも荷物の仕分けなどに独特の技術が必要であったりするので費用がかかります。建物明け渡し1件の基本額は6万5000円ですが、建物が大きければこれよりかかることもありますし、逆にワンルームなどであればお金が返ってくることもあります。
これとは別に訴訟費用などの実費もかかります。
そして、弁護士に依頼をすれば弁護士費用が生じます。着手金や成功報酬などで各事務所異なりますが、50万円程度の報酬を取る弁護士や法律事務所が多いのではないでしょうか。