交通事故の慰謝料について知っておきたい3つのこと

慰謝料にはよく分からない算定基準がある

交通事故慰謝料というのは、その名の通り、交通事故に遭ったことで受けた精神的苦痛を慰謝する(なぐさめる)ためのお金です。

そうすると、本来的には、ひとりひとりの事情を汲んで、なるほどそういう状況ではさぞ辛かったでしょうとか、それならそんなに気にしてないね、などと判断してケースバイケースで金額を定めていくことになりそうなものですが、現状はそうなっていません。

その大きな理由は、被害者間の公平を図るためだと考えられます。つまり、各事故について個別に判断するよりも、同じような怪我をしたら同じような慰謝料にするのが公平だと考えられているわけです。

しかも、その基準は、大きく2種類しかない上に、額を算定する要素は入通院日数です。

かなり大味な基準だと思いませんか?特に、入通院日数を慰謝料額算定の基礎にしている点がやっかいというか、慰謝料の額が事実を反映していないなと思うことが多々ある原因になっています。

たとえば、

A 交通事故に遭いムチ打ちと診断されたが、かなり痛くて病院にそんなに通えない、とりあえず初診で痛み止めを1ヶ月分もらって自宅で安静にしていろと言われたので安静にしていた。

B 交通事故に遭いムチ打ちと診断され、あまり痛くなかったが違和感もあったし保険会社も1ヶ月は治療費払うと言ってくれたので週に3回くらいリハビリをして1ヶ月で治療を終えた(実通院10日)。

これ、普通はAの方が慰謝料高いじゃないですか常識的に考えて。

でも、いまの裁判所の基準でいうと、Bの方が圧倒的に高いんですね。慰謝料は、Aだと3万円くらいですがBだと20万円くらいになります。

個人的には、あんまり合理的じゃないと思うんですが、実務的には当然の前提となっており、この算定方法自体を争うというのは得策ではなさそうです。

ちなみに、ここでいう3万円とか20万円っていうのは、赤い本という交通事故賠償業務のバイブル的な本に記載されており、裁判所もその表に従って判断することがほとんどです。こういう算定方法自体は、痛みを数値化して証拠にできる時代がこない限りは、仕方のない側面もあるのですが。。。

基準の話に戻します。

ここでいま3万円とか20万円というのが裁判所の基準での慰謝料ということになりますが、自賠責基準だとAは8400円、Bは8万4000円になります。4200円×実通院日数×2というやつです。

また、任意保険会社の基準だと、各社多少の差はあるでしょうが、おおよそ、Aが1万2000円程度、Bが13万円程度かなと思います。

このように、慰謝料の基準は、裁判基準(弁護士基準)、任意保険会社基準、自賠責基準と3つの基準があり、額に違いがあるだけでなく、計算の仕方なども異なっています。

なお、ときどき、自賠責基準の4200円×実通院日数×2という計算式で4ヶ月で100回くらい通院して、84万円請求できるでしょと言っている方もいるのですが、残念ながらこの場合に自賠責基準で計算すると上限が50万4000円になります。これは、自賠責基準の慰謝料の計算式の「実通院日数」の上限が15日とされているためです。つまり、自賠責基準での慰謝料は月額最大12万6000円(4200円×15日×2)までとなっているので、この点には注意が必要です。なお、この場合の裁判基準の慰謝料は、70万円弱です。

慰謝料には、3つの種類がある

慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。

入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、言葉の通り、交通事故によって入院や通院をさせられることになった=怪我をさせられたことに対する精神的苦痛を慰謝するためのお金です。

傷害慰謝料などということもあります。

この入通院慰謝料は、赤い本に定められた基準をもとに、通院期間と実通院日数、怪我の種類を考慮して算定されます。

たとえば、ムチ打ちになり6ヶ月通院した場合、実通院日数が60日以上なら89万円です。60日未満の場合には、89万円より低くなります。これは、ムチ打ちの場合には、通院期間か実通院日数の3倍のいずれか低い方を慰謝料算定の基礎にするとされているためです。

なぜ3倍なのかは知りません(誰か知っている人、教えてください。)。

後遺障害慰謝料

もう一つは、後遺障害慰謝料です。後遺障害慰謝料は、もちろん後遺障害が発生したことが証明できた場合にのみ認められるものです。

この後遺障害の立証については、自賠責保険調査事務所が調査して認定する後遺障害等級が意味を持ちます。後遺障害等級は、重い方から1級~14級の間で認定されます。

この後遺障害等級がつかないと、保険会社は後遺障害慰謝料を含む後遺障害部分の賠償はしてくれませんし、裁判所も自賠責の判断を極めて重要視しますので、実質的に後遺障害が発生したことを証明するためには、後遺障害等級の認定を受けないといけません。

後遺障害等級の認定を受ければ、後遺障害慰謝料を請求することができます。この後遺障害慰謝料についても、裁判所基準と呼ばれる基準があり、たとえば14級だと110万円などと決められています。

一応全部言っておくと、14級110万円、13級180万円、12級290万円、11級420万円、10級550万円、9級690万円、8級830万円、7級1000万円、6級1180万円、5級1400万円、4級1670万円、3級1990万円、2級2370万円、1級2800万円です。

死亡慰謝料

死亡慰謝料というのは、死亡させられたことに対する慰謝料です。死亡させられたことに対する慰謝料というのは、実は深く考えるとなかなか難しい話なのですが、現在では、死亡慰謝料という死亡させられた本人の慰謝料を認めるのが一般的です。

また、遺族固有の慰謝料(家族を死亡させれたことで生じる慰謝料)というものもあります。

この本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料は示談の際はまとめて死亡慰謝料としてくくられていることが普通ですので、注意が必要です。

もちろん、死亡慰謝料にも裁判所基準はあり、次のようにされています。

・ 被害者が一家の支柱 2800万円

・ 被害者が母親又は配偶者 2400万円

・ その他          2000万円~2200万円

この金額は、遺族固有の慰謝料を含むものですので、その点は注意してください。

慰謝料増額事由

慰謝料は、上記のように3つの基準と3つの種類があるのですが、慰謝料の裁判基準の額を増額するようなケースもあります。

たとえば、加害者の態度や交通事故態様があまりにひどいとき。

たとえば、被害者の怪我があまりに重いとき。

たとえば、被害者に後遺障害はあるが逸失利益がないとき。

などです。最後のやつはまた別の機会に詳しく書きますが、たとえば鎖骨の変形障害などは、直接的に労働能力に影響がないので逸失利益はないというのが素直な発想です。しかし、逸失利益を0円認定してしまうと、他の事例と比べてあまりに損害額が小さくなってしまうため、その点を考慮して慰謝料を基準よりも高めに認定するというものです。慰謝料の調整機能と呼ばれます。

ただし、慰謝料が増額されても、逸失利益を埋めるほどではないことが多いので、慰謝料増額を狙うよりは逸失利益の認定を狙う方がいいのかなと思います。もちろんケースバイケースではあります。

前二者の慰謝料増額事由については、感覚的にしっくりくると思うのですが、増額幅はそれほど大きくありません。通常、大きくても3割程度の増額にしかなりません。入通院慰謝料は、裁判基準であってもそれほど高いものではないので、3割の増額されるといっても、あまり期待しないほうがいいと思います。

 

 

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