隠しちゃダメ?前の所有者(借主)が自殺した不動産の取引で注意すべきこと。

前の所有者(借主)の自殺は瑕疵になるか

マンションの一室を貸していたら賃借人が自殺してしまった・・・

年間25,427人(平成26年)いるとされる自殺者のうちその半数が自宅で自殺に至るそうです(警察庁「自殺統計」より)。つまり、平成26年に自殺した人だけで計算しても1万件以上の家屋が自殺があった物件、いわゆる事故物件とよばれるものになります。

賃貸業を営んでいる方にとっては決して他人事にできないことであり、赤の他人に家屋を貸し渡す以上、負わざるを得ないリスクといえるかと思います。

貸した物件で自殺者が出たからといって建物を建て替えるというわけにはいきませんよね。

そこで、賃貸人としてはリフォームをするなどして少なくとも外見上は自殺があったことをわからなくするかと思います。これにより物理的に住むことができないというわけではありませんから、次の人に貸し渡すことになりますよね。

もっとも、同物件で自殺があったという事実が建物の瑕疵にあたれば、新たに締結した賃貸借契約が解除されることになりかねません。これに関して最高裁判所の判断はありませんが、大阪高判平成26年9月18日判時2245号22頁という裁判例がありますので一部抜粋致します。

「本件建物について建物内で1年数ヶ月前に居住者が自殺したとの事実があることは、居住を目的とする建物賃貸借契約において、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥であり、目的物が通常有すべき品質・性能を欠いているといえる。したがって、上記自殺に係る事実があることは、・・・『瑕疵』に当たるというべきである。」

このように少なくとも建物内で1年数ヶ月前に居住者が自殺した場合であれば、建物の瑕疵にあたるということになります。(どの程度前までの自殺が瑕疵にあたるかは当該裁判例からは不明です。)

隠しちゃだめなの??

自殺があったという事実は清掃やリフォームで外観上は分からない状態にすることはできるでしょう。また、誰だって、自分の所有管理する物件が事故物件だといいたくないのも自然なことです。そのため、賃貸人としては自殺があったことをいわずに賃借人に貸したいと思うかもしれません。もしバカ正直に事故物件だといえば、賃料は相場より低くせざるを得ないでしょうし、下手したらどんなに賃料を下げても借り手が付かないなんてことになりかねません。

しかし、賃貸人は、信義則上、当該物件で自殺があったという事実を新たに賃借人になろうとするものに告知する義務を負っていると考えられます。

したがって、知っているのにあえて告げなかったとしたらそのこと自体が不法行為になりかねません。また、告げなかったことにより上記の瑕疵が「隠れた瑕疵」、すなわち賃借人が知ることができなかった瑕疵となることから、賃貸借契約を解除され、賠償請求される可能性もあります。

当然ですが、ばれなければいいというものではないですし、ばれたときの大変さといったら、大変なものでしょう。上記裁判例のように高裁まで争う裁判に発展しかねません。そう考えると、たとえ賃料が下がったとしても心理的欠陥について納得してくれるような賃借人に貸した方がよっぽど利益になるともいえるでしょう。また、下がった分の賃料全額というわけにはいかないかもしれませんが、自殺した賃借人の連帯保証人や相続人に損害の賠償を請求することもできます。

自殺があったという事実は告げなくてはいけません。これは賃貸人の義務だというのももちろんなのですがし、隠すことが賃貸人にとって利益になるともいえません。

言いたくないことを言わなくてもよくなる日

自殺があったという事実についての告知義務はいつまでも課されるのかというとそのようなことはないといえるでしょう。この点については(かなり高額なケースを集めています)の裁判例で言及されていますので、その部分を抜粋致します。

「・・・自殺事故による嫌悪感も、もともと時の経過により希釈する類のものであると考えられることに加え、一般的に、自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば、当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情がない限り、新たな居住者である当該賃借人が当該物件で一定期間生活をすること自体により、その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるものと考えられる・・・。」

つまり、自殺があったという事実の後に貸し渡した賃借人には、この事実につき告知義務がありますが、この義務を果たせば、次の賃借人は解除するなどして極短期間で退去するというようなこともほとんどないといえますので、それ以後の賃借人になろうとする者に対しては告知義務を負わないということができそうです。通常賃貸借契約は2年間とされることが多いですから、2年経てば言わなくてもよくなる日が近いといえるかもしれません。

もっとも、当該裁判例では東京世田谷区という都市部であることや単身者を対象とする物件であるということ、自殺も世間の見目を集めるようなものではなかったということをも考慮したうえでこの告知義務がないことを認めていますから、当該事例限りの判断であるともいえます。したがって、2年経てば必ず告知義務はなくなるというわけではありません。事案ごとに検討すべきことであり、弁護士などの専門家の意見を聞くことをおすすめします。

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