養育費・賠償金の不払い。法改正があるかも?

養育費・賠償金をもらえるのにもらえない。どういうこと?

離婚時に養育費を支払うことが取り決められたが、ある時から支払がストップした。犯罪被害に遭って賠償金を加害者が支払うことが取り決められたが、ある時から支払がストップした。

このように、一度裁判で支払われることが決まった債権も、相手からの支払がぱたりと止まってしまったり、そもそも全く支払われないという事態が生じます。え?ダメでしょ?もちろん、ダメです。債務は誠実に履行しなければなりません。もっとも、相手がかたくなに支払わなければ、手元にお金はやってきません。支払わないからといって、脅したり、無理やり財産を奪えば脅迫罪や窃盗罪、強盗罪などの刑事責任を問われる可能性すらあるのです。なので、相手が払わないときはちゃんとした手続を踏んで下さい。

判決で負けても支払わない相手にどうすればいいのか

不払いがあれば、ないしは不払いが予想されるのであれば、強制執行により差押えや仮差押えをすることができます。なお、仮差押えについては仮差押えについて本気で押さえておきたい3つのことをご覧ください。

この差押えをするためには財産を特定しなければなりません。あの人が何かしら財産を持っていると思うから差し押さえて下さい、と裁判所にお願いすることはできないのです。養育費や賠償金などの請求のための差押えは相手の給与や銀行口座にすることが多くなるかと思います。

給料債権の差押え

給与であれば相手の勤務先が、銀行口座であれば口座番号等が必要になります。給与の差押えは相手の勤務先がわかれば可能ですが、差し押さえることができる範囲が法律上決められており、税金等の法定控除額を控除した額の4分の1と限定されています(民事執行法152条1項2号)。ただし、支払期が毎月の場合で、給与から税金等を控除した額が44万円を超える場合は、税金等を控除した額から33万円を控除した額、つまり11万円以上を差し押さえることが可能となります(民事執行令2条1項)。支払期によりこの33万円という額は変動し、半月毎であれば16万5000円、整数月毎であれば33万円×当該整数月、10日毎であれば11万円、日給の場合は1万1000円、その他の期間は1万1000円×期間の日数ということになります。給与で人は生活していますので、最低限度これくらいは生活費として債務者にも現金が行きわたるべきだという考えの下このように定められています。

銀行口座の差押え

では、相手方の勤務先がそもそもわからなかったり、わかっていたが転職してわからなくなってしまった場合、給与だけを差し押さえたのでは満足な支払とならないような場合には、相手方の銀行口座を差し押さえることを考えるでしょう。もちろん、口座番号がわかっているのであれば最初から銀行口座を差し押さえても構いません。

とはいえ、この口座番号を知るのはなかなかに大変です。
素直に相手に聞いたり、既にこちらが知っている口座であったりした場合、相手はそもそも不払いにある債務者ですから、そのような口座から全て現金を引き落として空にするでしょう。空の口座を差し押さえても、もちろん無意味です。また、養育費不払いの場合などは、普段使用する口座は変更されているでしょう。
裁判所は現状特定した財産しか差し押さえてくれませんから、何かしらの方法により口座を調べる必要があります。とはいえ、これが簡単ではないのです。例えば、弁護士による23条照会という弁護士会を通じた情報の照会手段があるのですが、これですら銀行側は口座番号を教えてはくれないことがほとんどです。銀行側としては口座番号は個人情報であり守秘義務を負っていますので簡単に教えるわけにはいかないという理屈です。
近時は、一部の弁護士会と三井住友銀行との間で、債務名義を得たうえで所定の手続きに従えば全店照会に応じる合意がなされるなど、比較的緩やかになってきてはいるのですが、口座番号を知るのは弁護士であっても困難なのです。一般の方が、相手から教わるなどして口座番号を知るなどしない限りはなかなか口座番号を知ることは困難でしょう。

救世主?法改正の流れ

このように、せっかく養育費や賠償金を支払ってもらえる立場にあっても、相手が不払いを決め込み口座を移すなどして不払いを決め込んでしまえば、勤務先を知りでもしない限り、現金を得ることはできなくなってしまいます。子どもの学費や加害による治療費など、現金が必要であるにも関わらず、結局自己負担になってしまいかねない、という事態がまま生じているのです。

もちろん、裁判を提起する前に仮差押えをしてしまえばいいのですが、仮差押えも万能ではないですし、途中不払いになってしまうようなケースではどうしようもありません。
そこで、民事執行法を改正して、裁判などで確定した債務については、金融機関に当該債務者の口座照会に対して回答義務を定めようという報道が2016年6月付でなされました。2018年の通常国会での改正案提出を目指すそうです。これが実現すれば、スムーズな不払いの解消が可能になるかもしれませんね。実務家としてはかなり関心が高い法改正です。

どうしても不払いとなってしまうケースも

とはいえ、どうしても不払いとなってしまうケースがあります。まずは、口座からも現金を全て引き出し、当人も雲隠れしてしまうような場合です。法律上は請求可能ですが、物理的に不可能ということになってしまいます。もちろん、探し出して支払を求めることはできます。

一方、相手が破産してしまったような場合はどうでしょう。相手が破産すると、破産免責といって強制執行を含む債務の取り立てをすることができなくなります。したがって、通常はもはや支払ってとはいえなくなってしまいます。しかし、子の養育費に関しては、非免責債権といいまして破産後も強制執行を含む取り立てをすることが許されています。もちろん、破産するほどですから支払能力があるのかは疑問ですが、破産後に口座を差し押さえるなり、給料を差し押さえるなどすれば取り立てることが全く不可能ということはありません。

賠償金に関しても、通常は免責されてしまうのですが、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」やこれを除いた「故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」についても非免責債権として、強制執行を含む取り立てをすることはできなくなってしまいます。ここでいう「悪意」とは単に不法行為となることを知っていたのみでは足りず、犯罪行為などに限られるといわれています。また、交通事故で被害を被ったような場合などには後者の非免責債権に当たる可能性があります。

このようにどうしても不払いになってしまうようなケースもあり得ますが、その判断には法的判断も含むような場合もたくさんあり得ますので、お困りの際にはぜひ弁護士にご相談下さい。

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