遺言書に赤い斜線、破棄したといえるのか
- 2015/12/14
- 親族・相続
遺言書を撤回・変更したい
「終活」という言葉が流行?してからか、遺言書の作成は徐々に増えています。流行に乗っかって作成してはみたものの、やっぱりやめた、変更したいという方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。遺言書の効力は遺言者の死亡時からとされていますので、作成してから効力が生じるまでにかなりの程度タイムラグがある場合がほとんどです。したがって、やめようと思ったり、変更しようと思ったりするケースも多くあります。
そこで、一度作成した遺言書を撤回したり、変更したりすることはできるのかを見ていきたいと思います。
遺言書の種類など一般的なことについては遺言を作るときに注意したい5つのことをご覧ください。
遺言書の撤回
一度書いた遺言書を無かったことにすることは法律上認められています。これを遺言書の撤回といいまして、これは「いつでも」、「全部又は一部」について撤回することができるとされています。問題は撤回の仕方なのですが、3つの方法があります。
まず、原則パターンとして撤回の趣旨の遺言を作成する方法があります。その方式は撤回しようとしている遺言とは別の方式でも構いませんが、遺言としての形式を備えている必要があります。
第2に、遺言者が遺言書に書いてあることに反した行動を生前にしてしまうことです。目的物を売ったり破棄したりした場合には遺言書は撤回されたものとみなされます。ただし、このような抵触行為と思しき行為が本当に抵触しているといえるかどうかは法的問題点が多いところです。撤回したいからと安易にこの方法によるのは危険でしょう。
第3に、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合には、破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされます。一般的には、遺言書を破り捨てるだとか、文字をつぶすなどがこれにあたると言われてきました。この点については、最新の判例が出ましたのであとでみることにします。この方法の撤回は自筆証書遺言と秘密証書遺言のみすることができます。公正証書遺言は公証役場にあるものを破り捨てたりしなければなりませんから、実質的に不可能なのです。
遺言書の変更
息子に4割、妻に6割相続させようと思い遺言書を作成したが、妻の浮気を知ってから息子に8割、妻に2割相続させるよう変更しようと思うに至りました。そこで、遺言書を再度作成した場合には、後の遺言が優先されますので、前の遺言は撤回されたものとみなされます。これも撤回の方法のひとつですが、遺言を変更するという側面もあるといえます。この場合はすべて撤回されるのではなく、矛盾が生じる部分についてだけ撤回されるので注意が必要です。
では、一度書いた遺言書をそのまま流用することはできないのでしょうか。例えば、先の例で言えば「4割、6割」の箇所を「8割、2割」に書き換えることができないかということです。公正証書遺言を除けば、そのような書き換えも不可能ではありませんがおすすめはできません。というのも、自筆証書遺言も秘密証書遺言も形式面によって簡単に効力が否定されることになりかねませんから、書き換えた結果全部無効になったといったことになれば、変更の意思を相続に反映させることはできなくなってしまいます。改めて遺言をするべきでしょう。
赤斜線を引いたら?最新判例
遺言をする場合にはできれば公正証書遺言であるべきということは先ほどの別の記事でもみましたが、実際に遺言をしようとすると自筆証書遺言であることが多いといえるでしょう。自分が管理する金庫などで遺言書を保管してるでしょうから、撤回したい場合は破り捨てたりするなどして、読めなくするのが撤回の基本になるかと思います。
では、赤ペンで遺言書の文章が書いてある箇所全体に斜線を書いた場合はどうでしょうか。相続人である長女がこの赤斜線は遺言者が書き損じた年賀状にも記していたので遺言を故意に撤回する旨のものであるとして遺言の無効を訴えました。1審2審はともに「文字が読める程度の消し方では遺言を撤回したとはいえない」として遺言の効力を認めていましたが、最高裁としては「赤色のボールペンで文面全体に斜線を引く行為は、一般的な意味に照らして、遺言のすべての効力を失わせる意味である」として遺言は無効であるとしました。(最判平成27年11月20日)
今後の課題
故意の破棄に赤斜線が含まれたことによって、いかなる態様の行為が今後撤回とみなされるかは状況をみるしかありませんが、少なくともこれまで一般的であった破り捨てなどの物理的破壊よりも広い範囲で認められることになるとは思います。遺言者の意思を尊重したとみることができますが、反面不正の温床にもなりかねない側面はあります。
今回の事件では遺言書が封入された封筒の上部は切られていたのですが、赤斜線をする以上は確かにこうするしかありませんし、実際に破棄する意思があったのであれば改めて封筒に入れるような行為にも及ばなかったとのは通常といえるでしょう。一方で、本件では遺言者自身が赤斜線をしたと認定されていますが、誰か他の人が赤斜線をするといったケースも考えられるかもしれません。このようにして、誰でも自己に不利となるような遺言書を破棄することが可能なのです。しかし、それは赤斜線に限った話ではなく、見つけ次第破り捨てれば同じなので、今回の判断が特段不当であったとはいえないでしょう。
やはりこのようなトラブルを防止するためにもできれば公正証書遺言によるのがいいでしょう。
確実に破棄するには
今回は赤斜線でも故意の破棄が認められましたが、遺言書に大きく無効と書く、二重線を書く、紙をぐしゃぐしゃに丸めるなど、故意の破棄といえるかどうかが問題になりえます。一度破棄を考えたのであれば、自分の相続人たちのことを考えてトラブルを未然に防止するためにも確実に破棄したいところです。
そこで、破棄するのであれば跡形もなく遺言書自体をなくしてしまうのがいいでしょう。破り捨てた遺言書を再度つなぎ合わせたからと言って効力が認められることはおそらくないでしょうが、そのようなトラブルでさえも防ぐために再生できない状態にするべきです。燃やしてしまうのも手ですが、火事の危険もありますから(笑)、シュレッダーに掛けてしまうことをおすすめしておきたいと思います。
また、自分で作成した遺言書の撤回や変更などで少しでもお悩みの場合は一度専門家である弁護士にご相談なさるのがいいでしょう。