買った物で怪我をした!PL法って何ですか

製造物責任法(PL法)がなかったら

製品の欠陥による消費者被害として、他国のニュースですが、ポケットに入れていたスマートフォンが爆発して大怪我をしたという事件がありました。国内では古くはサリドマイド事件など医薬品の欠陥による事件がいくつかあります。また、ジュースの中に異物が混入していてのどを怪我するといった事件もありました。

このような製品の欠陥によって損害が発生したときに活躍するのが製造物責任法(PL法)です。

たとえばスマートフォンが爆発して怪我をした場合に、PL法なしに民事責任を追及しようとする場合、不法行為の構成によるならば被害者はスマートフォンが爆発したことについての過失が製造業者にあることを立証しなければなりません。具体的には、製造中に部品が足りないことを見落としたといったことや、配線がむき出しになったことに気づけたのに気づかないまま製造したといったことを証明しなければならないということになります。瑕疵担保責任の構成も取ることができますが、瑕疵担保責任では、爆発したスマートフォンの代金は返ってきますが怪我した分の治療費や慰謝料は支払われません。

このように、民法上の規律だけでは、消費者にとって立証が極めて難しかったり損害を全て賠償させることができなかったりして不十分なのです。

PL法は、そのような不十分さを補うために作られた特別法であるといえます。

PL法によって、製造物に欠陥があり、その欠陥により生命、身体又は財産を侵害したときは、損害賠償義務を負うということになります。つまり、その製品から損害が発生したことさえ立証できれば、被害者が欠陥について製造者に過失があるかどうかまでは立証する必要がないということになります。

海外で製造された物でも諦めない

海外で製造された物であれば、製造者が国外にいる以上損害賠償を請求するのは難しいのではないかという問題があります。しかし、このような場合に備えて、PL法は、損害賠償の責任を負う人について実際にその物を製造した人(や会社)に限られていません。

まず、実際には海外で製造されていても、表示上の製造者が国内であれば、表示されている製造者に対して請求することができます。怪我等を生じさせた欠陥製品に書かれている製造業者名を確認してみることは重要です。

さらに、PL法は、輸入業者に対しても製造物責任を追及できるとしています。

輸入業者は、製造業者・加工業者と異なり製品の危険性を回避することができないように思えます。その製造・加工過程に加わらない以上、製品の欠陥から生じた損害を防止するのは難しいからです。それでも、PL法が明確に輸入業者を責任を負うべき対象としたのは、輸入業者がその意思で製品を国内市場において流通させたという点に製造業者と同様の責任があるといえるからです。

また、輸入業者は国外の製造・加工業者から当該製品の輸入にあたり接触がある以上、その国外製造業者に対して損害賠償請求をすることは消費者に比べれば容易ですから、国内の一次的な責任主体として適切とされたのです。

被害者の勝訴率が低い製造物責任訴訟。問題点は?

製造物責任を追及する場合、明らかに損害賠償義務が生じている場合には、自主交渉による示談や仲裁等裁判外での紛争解決が増えています。この背景には企業側がPL保険に加入し支払に目処が立つケースが増えているのが一因でしょう。

一方、相手方企業が製造物責任について争う姿勢を見せ裁判に移行した場合には、消費者としても裁判で損害賠償請求をしていくことになります。もっとも、この訴訟の被害者側勝訴率は低いといわれています。

たしかに、PL法を使えば、通常の損害賠償請求(不法行為)と比較すると欠陥についての過失を立証する必要はないのですが、たとえば因果関係を中心とする立証、証拠収集の困難さについてはPL法上の措置はないために、被害者側が立証をしないといけないという負担はまだ残っており、この点が被害者の勝訴率を低くする原因となっていると思われます。

何を立証すべきなのか

製品事故に関し、被害者側が立証すべき事項としては、①相手方が製造物につき責任を負う者であること、②その製造物に欠陥があること、③人身損害等製造事故損害の発生と製造物の欠陥との間に因果関係があること、④損害となります。特に立証難という意味で問題となるのは②と③です。

②その製造物に欠陥があること

製造物に欠陥があることについて、どの程度の立証が必要でしょうか。この点については、仙台高判平成22.4.22が以下のように判示しており参考になります。

通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで、欠陥の主張・立証としては足りるというべきであり、それ以上に、具体的欠陥等を特定した上で、欠陥を生じた原因、欠陥の科学的機序まで主張立証責任を負うものではないと解すべきである。

機械や医薬品等専門性の高い製品の場合には、たとえ被害者が弁護士などをいれて入念に調査しても具体的に欠陥として指摘できない場合も多いので、上記仙台高判の定義付けは妥当であると思います。また、テレビが炎上し火災を引き起こしたとされる事件において、大阪地判平成6.3.29判時1493.29は、

テレビはその構造上、内部は利用者の手の届かないいわばブラックボックスともいうべきものであって、社会通念上設置が適切に行われる限り、利用者が危険の発生する可能性を念頭において、安全性確保のために特段の注意を払わなければならない製品であるとも、何らかの危険を甘受すべき製品であるとも考えられない

と述べた上で、欠陥部位の特定までは必要はないとしています。

とはいえ、もし可能であれば、できる限りの立証を尽くすのも望ましい対応であるとして、欠陥部位の特定も可能であれば望ましいというのが裁判所の素直な発想だと思います(東京地判平成11.8.31判時1687.53参照)。

また、会社側のよくある反論として、被害者が欠陥だと思っているものは欠陥ではなく、被害者の誤使用などにより発生した損害だというものがあります。その製品の問題となる部分が欠陥なのか通常とは異なる利用によるものなのかという点を証明するのは、言葉でいうと簡単なのですが、微妙なケースも相当数あるのですが、あまり判例の蓄積がなく目処が立てにくいいのが現状です。

部位特定までは必要ではないとしても、このように欠陥を被害者側が立証するのは困難なことは変わりがありません。日弁連等はPL法の立法の際に欠陥については欠陥はなかったということを企業側が立証するようにすべきという主張をしていたようですが、PL法成立の趣旨からすれば、やはりそうすべきではないかと思います。

③人身損害等製造事故損害の発生と製造物の欠陥との間に因果関係があること

怪我をしたりといった損害について、「欠陥が原因ではなく他に原因があったのではないか」のように、損害と欠陥の間の因果関係を否定する旨の主張・立証を企業側がしてくることも多いです。これに対しては、他の原因というものをひとつひとつ丁寧につぶして、やはり欠陥が原因なんだというところまで立証しなければなりません。しかし、企業側には、欠陥でないならどういう原因なのかまで特定する必要もなく、ただ「他の原因のせいじゃない?」という主張をすればよく、被害者側がいちいち「欠陥以外の原因はない」ということを明確にしないといけないのが実情です。

この点についても、日弁連は因果関係がないことを企業側が立証するようにすべきとの主張をしていましたが、今後の改正でそのようになることを切に望むところです。ちなみに、この問題は、交通事故などの普通の不法行為の場合も問題になる点です。少なくとも、加害者側が争点形成の義務(欠陥が原因でなく○○が原因だと他原因を特定して争点化する義務)までは負うべきではないかと思います。

証拠収集

そもそもこのように立証が困難となっていることの背景には被害者側の証拠能力の低さがあります。

ほとんどの証拠が企業側にあるにも関わらず、それを回収する手段も少ないうえ、せっかく収集できるタイミングを逸している場合も多いのです。なぜ逃すのかといえば、たとえば製造物が原因で火災が発生した場合捜査機関が現場を捜査するのでそれで安心してしまうからです。もちろん捜査機関からこの捜査報告書等を入手することが全く不可能というわけではないのですが、基本的には入手できないものと考えておくべきです。ですので、捜査機関が捜査したからといって捜査機関が収集した証拠を使えるわけではないと考えておくべきです。

したがって、警察が捜査してもそれで安心することなく自らビデオ、写真等で現場の証拠を残しておくべきなのです。製造物のみが残っていても、それがどの規模の損害を発生させたのかは物からはわかりません(もちろん製造物を保管しておくことは超重要ですが。)。

最終的な立証のことを思えば、損害発生後の初動が極めて大事なのですが、事件直後に法的素人である被害者に対して冷静にそのような行動をしろというのは酷でしょう。

この現場の状況以外の証拠に関してはほとんどが企業側にあります。民事訴訟法上に規定されている証拠収集が必ずしも機能しているとはいえないところがあります。製造物責任だけでなく、こういった構造は多くの場面で存在しますので、証拠開示についての法律改正等に期待したいところです。

これまで製造物責任を追及できた事例

上記のような現状においても、数は少ないですが製造物責任を認めた判例はいくつかあります。一部ですが下記のような事例で認められています。

・ 割烹が調理したイシガキダイを、アライ、兜焼き等にして客に提供したところ、その客がシガテラ毒素を原因とする食中毒に罹患したという事例(東京地判平成14.12.13判時1805.14)

・ 電気ストーブが発する化学物質によって健康被害を受けたという事例(東京地判平成20.8.29判時2031.71)

・ カプセル入り玩具のカプセルを2歳児が誤飲した事例(鹿児島地判平成20.5.20判時2015.116)

・ 携帯電話をズボンのポケットに入れたままこたつに入っていて火傷した事例(仙台高判平成22.4.22判時2086.42)

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