死にますよ?過労死を防ぐために知っておきたい5つのこと
- 2015/9/2
- 労働問題
過労死とは
読んで字のごとく「労」働し「過」ぎて「死」亡してしまうことです。労働していたことと死亡したことは否定しようがない事実ですが、労働し過ぎていたのか、この労働し過ぎによって死亡したといえるのかという点については立証が困難なケースが多いです。
そもそもの話として、過労死も当然に労働災害です。もちろん(?)、会社としては労働者が死亡したことは過労が原因だとは認めないでしょう。本来、不法行為による損害賠償請求は被害者側が証明責任を負っています。会社側が争えば被害者側が立証しなければなりません。しかし、家族を失った遺族にとって過労死であると闘い続けることの精神的負担は計り知れません。そこで、少しでも立証しやすいよう過労死とはどのようなものをいうのかということについて厚生労働省が一定のガイドラインを提示しています。
このガイドラインによれば、過労死として認められる疾患としては、虚血性心疾患と脳血管疾患であるとされています。その意味では、過労死とは、労働を原因とする心疾患・脳血管疾患ということができるでしょう。具体的には、脳血管疾患としては、脳出血、くも膜下出血、虚血性の脳梗塞、高血圧性脳症が、虚血性心疾患としては、狭心症、心筋梗塞、心停止(心臓性突然死を含む。)、解離性大動脈瘤が過労死に当たりうる疾患ということになります。これらの症状が「業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した」といえる場合に過労死にあたるとして厚生労働省が認定基準を定めており、その細目についても定めていますので、これを見ていきましょう。
「業務による明らかな過重負荷」とは?
厚生労働省の基準によりますと、「業務による明らかな」とは、発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていることをいいます。「過重負荷」とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく憎悪させうることが客観的に認められる負荷をいいます。この業務による明らかな過重負荷があるかどうかは事案に応じて検討することとされており、①異常な出来事、②短期間の過重業務、③長期間の過重業務の3つに類型化されています。
①異常な出来事
「発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にしうる異常な出来事に遭遇したこと」があれば過労死の原因たり得るとされています。異常な出来事としては、精神的負荷によるもの、身体的負荷によるもの、作業環境の変化によるものが考えられまして、精神的・身体的負荷については通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれば事故又は災害等で、その程度が甚大であったかについて検討することになるでしょう。作業環境の変化については、気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったかについて検討することになるでしょう。
②短期間の過重業務
「発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重な業務に就労したこと」があれば過労死の原因たり得るとされています。特に過重な業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる仕事のことをいい、具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
この具体的な負荷要因とは、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交替制勤務・深夜勤務、作業環境(温度環境・騒音・時差)、精神的緊張を伴う業務のことを指します。
③長期間の過重業務
「発症前の長期間(発症前おおむね6ヶ月間)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと」があれば過労死の原因たり得るとされています。これは、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。付加要因としては、②短期間の過重業務と同様の内容になります。
もっとも、労働時間の評価の目安が定められており、⑴発症前1ヶ月間ないし6ヶ月間に渡って、1ヶ月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められていない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること、⑵おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること、⑶発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること、を踏まえて判断するとしています。
過労死と労働問題としての自殺
過労死はいわば疾患が直接の死因として被災労働者が死亡する場合になりますが、労働問題としての自殺、すなわち過労自殺については直接の死因は自殺の態様によるということになるでしょう。さらに、労働者災害補償保険法12条の2によれば、「故意に・・・死亡の原因となった事故を生じさせたときは保険給付を行わない」とされており、自殺についてはそもそも労災保険の適用外と読めなくもありません。
しかし、過労自殺は確かに存在します。うつ病などの精神疾患を負った人が自殺を企図することは医学上認められているからです。じゃあ、法律が医学に対応してないのか、というとそんなこともありません。ロジック的には、過労による精神的負荷により精神疾患に罹患し正常な判断能力が失われているので、自殺することについての故意がないなどといわれたりするようです。そこで、実際の判断も、過労→精神疾患、精神疾患→自殺が認められれば、過労→自殺が認められるということになります。
結論としては過労自殺の場合も判断の流れに違いはあっても、結論的には労災として認定されうるということになります。
過労死と損害賠償
ここまでみてきた過労死の認定については、各都道府県の労働局に申し出て受け取る労働者災害補償保険の給付に関するものです。この労災給付では損害を補えきれない場合やそもそも労災として認定されず損害を回復できないようなことはままあります。そこで、会社に直接損害賠償請求することが考えられます。労災として認定されるかと損害賠償できるかという点は基本的には別問題です。もちろん、同じ事案ですから、労災にもあたらなければ損害賠償もできないというケースはあるかもしれませんが、事案によるということになります。そして、立証のしやすさや消滅時効の点を勘案してどの法律構成によるべきかが異なってきます。大別すると、安全配慮義務違反による債務不履行という構成と不法行為という構成があります。法律論の詳細につきましては労災事故、会社の責任は?をご覧ください。
会社側が直接的に過労死となりうるような要因があれば不法行為によるかもしれません。もっとも、過労死の要因は労働者自身の素因、基礎疾患、既応症なども影響していることがままあります。そこで、安全配慮義務の内容としては発病を防止する義務ではなく、憎悪防止義務となります。会社が基礎疾患等を憎悪させたといえるかどうかを問題とすることになります。
過労死は過失相殺されるか
過失相殺とは、債務不履行または不法行為によって損害賠償責任が生じる場合に、損害を受けた側にも過失があったときに、裁判所がその過失を考慮して損害賠償額を減額することです。民事労働災害訴訟について、この過失相殺の適用があるのかどうかにつき学説上の争いはあれど、裁判実務上は過失相殺を通常通り適用するという運用で一致しています。
では、損害を受けた側、労働者側にいかなる事情があれば過失があるとして過失相殺を受けるのかというと、自己保健義務違反、保護具着用義務違反といった労働契約に付随する義務に反する事情がある場合の他、災害の発生そのものに労働者の不注意があった場合です。
実際に、健康診断を受けに行かない上、疾病により通院しており、医師からの入院勧告なしは仕事量を減らすよう勧告を受けたにも関わらずこれを勤務先に報告しないでいたところ、業務中に脳内出血で死亡したという事案で裁判において過失相殺の適用が認められています。
過失相殺と似て非なるものとして寄与度というものがあります。これは使用者側の行為以外に、災害・疾病の発生やその損害の拡大に寄与した要因がある場合は、裁判所がその寄与の度合いを考慮して損害賠償額を減額するということです。たとえば、元からある傷病や性格、日常生活に損害を生じさせるような要因がある場合などです。その事情が損害を拡大させているという点においては過失相殺と大差はありませんが、当該事情についての労働者の過失が不要であるという点が異なる点となります。
過労死を防ぐには
過労死を防ぐためには働き過ぎるな、というのが一番の防止策です。とはいえ、忙しくてそんなことも言っていられない、という方も多いかとは思います。また、自分にとっては働き過ていないと思っていても、実際は自らの命を蝕んでいるということになっていることはあり得ることです。
過労死等防止対策については国家レベルでも問題ととらえて、種々の対策に取り組んでいます。平成26年11月1日からは過労死防止法が施行されていますし、平成27年7月24日には過労死等の防止のための対策に関する大綱について閣議決定がなされました。厚生労働省のHPにも次のような記載があります。
過労死等防止対策推進法は、近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的としています。
もっとも当該法律は理念が書かれているだけの法律とも言われるように具体的にどうこうということが書かれているわけではありません。これに反して労働時間規制の撤廃なんてことも言われたりしており、そんなことでは過労死がこれからも増え続けるということすら危ぶまれはします。
とはいえ、平成27年の大綱によれば、将来的な過労死をゼロにすることを目標に、平成32年までに週労働時間60時間以上以上の雇用者の割合を5%以下にすること、年次有給休暇の取得率を70%以上にすること、平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上にすること、と具体的な数字による目標が設定されており、このような方向での防止対策がなされることは望ましいことでしょう。
このような国の施策がよりよい方向に進んでいくこととは別に、働き働かせる者が自覚をもって過労死の防止に対する対策を講じることが求められます。自分で働き過ぎかどうかを主観的に判断するのではなく、客観的に判断することが求められます。実際自分がどれほどの時間労働しているかをまずは把握することからはじめるのがよいでしょう。また、働かせる側からも働かせすぎていないか注意することを心がけましょう。そして、働かせる側も労働者の勤務時間をしっかりと把握するようにしましょう。そして、何かありそうだと思ったら周りに相談し、国が設置する相談窓口(労基署や労働局)や民間レベルでも相談窓口があったりしますのでここに相談するのも手だと思います。