もともと車椅子ならむち打ちにならない?自賠責のおかしな運用
- 2016/1/20
- 交通事故
自賠責は車椅子乗っている人はムチ打ちにならないと考えている
日本の交通事故賠償を語る上で欠かせないのが自賠責(正確には損害保険料率算出機構)の存在です。
人身事故の損害賠償は、傷害部分と後遺障害部分に分けられ、前者が「ひとまず症状が落ち着くところ(治った場合含む)まで」の賠償、後者が「もとの健康状態より悪くなってしまった部分」の賠償となっています。
この後遺障害部分というのは、当然、後遺障害の存在や因果関係を立証しなければいけないのですが、実のところこの立証されてるかどうかを判断する能力というのは、弁護士も保険会社も、裁判所ですら十分でないといって過言ではないと思います。
そこで大きな役割を果たしているのが自賠責(損害保険料率算出機構)です。
交通事故の場合、この自賠責(損害保険料率算出機構)が後遺障害等級という等級の認定を行っており、ここで等級認定されれば後遺障害の立証がされたものとして扱われる運用になっています(建前としては裁判所はこの自賠責保険の判断に縛られないのですが、かなり重視しているのは間違いないです。)。
ところが、この等級認定、おかしいだろと思うことが結構あります。今回の記事もその一つ。
そう、自賠責(損害保険料率算出機構)は、たとえば下半身不随の人が交通事故により首を痛めて痛みが後遺症として残ってしまった場合であっても「同一部位」の後遺障害であるから等級認定しないという運用をしています。
一見しておかしいと思いません?
車椅子生活してても両手は動かせて首も痛くなかったんです。交通事故のあと、首が痛くなり通院したけど結局直らず首は痛いまま。
なのに、「あなたはもともと下半身不随だから、首の痛みは『同一部位』の障害なので等級認定できません」と返ってくるわけです。
自賠の運用を変えられるのは、裁判所
自賠責(損害保険料率算出機構)の判断をかなり重視する、と前述した裁判所ですが、上記運用について明確にNOの結論を出す判決が、2016年1月20日東京高裁で出されました。
このケースでも自賠責(損害保険料率算出機構)は、上記運用のとおり非該当と返答してきました。
この運用を変えるには、裁判所に訴えるしかない。平岡は、自賠責(損害保険料率算出機構)をも被告として訴えることで自賠責(損害保険料率算出機構)の運用のおかしさを裁判所に問いました。目の前にいる被害者と、同じ目にあっているどこかにいる被害者の、切なる期待を抱えて。
そして、第一審のさいたま地方裁判所は、見事にこの期待に応えてくれました。
自賠責(損害保険料率算出機構)はもちろん控訴してきましたが、控訴審でもさいたま地方裁判所の結論(「自賠責(損害保険料率算出機構)の同一部位の解釈はおかしい」)は維持されました。
これは非常に大きな意義があります。
裁判所に判断してもらうには、被害者と弁護士が動かねばならない
これまで、この運用に泣いてきた交通事故被害者は多くいるはずです。実際、平岡は、同様の被害者について裁判をすることを説得したことがありますが、被害者の方から裁判を拒まれたこともあるそうです。今回の被害者の方が、裁判に訴えることを決意してくれたことが、この判決、そして今後の自賠責(損害保険料率算出機構)の運用を変えることに繋がっているわけです。
一般の人にとって、裁判は負担があるものです。一般人である被害者の方が、長い間堅持されてきた自賠責(損害保険料率算出機構)の運用の是非を問う裁判に臨むことは、相当の覚悟が必要だったと思います。
東京高裁も上記運用を否定したという事実は、自賠責(損害保険料率算出機構)も軽視できないはずです。今後の自賠責(損害保険料率算出機構)の運用が気になるところです。
同種事例で非該当の結論になれば即座に裁判という流れになるのではないでしょうか。自賠責(損害保険料率算出機構)が運用自体を変更してくれることが期待されます。