次浮気したら慰謝料1億円、という夫婦間契約
- 2016/2/24
- 親族・相続
浮気を防ぐあれこれ
浮気癖がある夫や妻に、浮気をやめろといってもあまり効果がない場合があります。次、浮気したら○○だ!という言質をとって次の浮気を防ぐようなことは抑止力としてはある程度効果があるかもしれません。もちろん、不倫(不貞行為)は離婚原因ですから、嫌だったら離婚してしまえばいい、とも言えます。しかし、実際には経済力の面で問題があったり、浮気は嫌だが離婚したいとまでは思っていないというような方も多くいらっしゃるのです。
「もうしない」とだけ約束したのでは癖はなかなか治らないでしょうから、条件を付けて相手に不利益を被らせることはまたひとつの手段かもしれません。
「次浮気したら慰謝料1億円」という言質を書面にする
「次浮気したらご両親に報告する」というような事実行為を不利益の内容にする場合はあまり問題は生じません。嘘八百を言えばそれはまた別の問題にはなるかもしれませんが、基本的にご両親に事実を伝える程度はOKです。とはいえ、事実行為が効くかどうかは人によりますから、お金を不利益の内容にしてしまうということを考える人もいるかと思います。それが「次浮気したら慰謝料1億円支払え」というものです。金額設定によるかもしれませんが、お金は誰にだってダメージになるでしょうから、いい手を考えた!と思った方もいらっしゃるでしょう。
このような契約を締結するにあたっては、必ずしも書面にする必要はないのですが、後々のトラブルを円滑に解決するためには書面にしておくことがベターでしょう。そもそも、書面でなければ成立しない契約は保証契約などごく限られたものしかありません。ただし、本件の契約を贈与と解した場合には別途問題が生じるので後述します。
この書面に記された契約の履行を求めることはできるか
いい手を考えたところまではよかったのですが、この契約は法律上の問題をたくさん抱えています。
不法条件か?
まず、民法132条をみてみましょう。
民法132条(不法条件)
不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。
不貞行為は離婚原因のひとつにされているように民事上違法な行為です。したがって、不貞行為(不倫)をしないことを条件とする上記の契約は無効となるとも考えられるのです。しかし、違法行為全てが「不法な行為」になるのかというとそんなことはありません。ここでいう「不法な行為」とは、契約全体として見て不法行為を助長するようなものであり不法性を帯びるような契約に限るといわれているからです。もう不倫しちゃだめと言われて不倫を助長するようなことはありませんし、目的は不倫を防止することなのは明らかですから不法条件とはいえないでしょう。
贈与契約か?
仮に贈与契約であるとすれば、書面によらない場合は撤回することが認められています。一方、書面によればこのような方法による撤回は認められません。とはいえ、ここの解釈は場合によります。「慰謝料」と書いてあれば賠償額の予定(420条)とも考えられますし、贈与のような記載に見えても実際は離婚の際の財産分与(768条1項)とも考えられます。
あとで贈与かどうか争われても問題がないようにという点でも書面にはしたほうがいいでしょう。
夫婦間の契約の取消権
民法754条によりますと、夫婦間でした契約は取り消すことができるとされています。
民法754条(夫婦間の契約の取消権)
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
民法にこのように書かれているのですが、この条文は削除が検討されるなどその存在自体に大変疑問がある条文といわれています。立法趣旨は夫婦間の訴訟は家庭の平和を害するから、夫婦間の契約につき法的拘束力をもたせて訴訟の対象とするべきではないという点にあるといわれていますが、現代において夫婦関係は様々であり、その他の民法上の規定で十分対処できることから、不必要な条文といわれているようです。とはいえ民法に書かれている以上一応効力はありますが、判例上その適用には大幅な制限がなされています。
この夫婦間の契約の取消権が問題となるようなケースはほぼ間違いなく夫婦関係が破綻していると思われます。そして、婚姻が実質的に破綻している場合には、本条の適用はないとするのが判例の確立したといえる立場です。
不倫が再度顕在化し、慰謝料等を求めるような争いに発展している場合には少なくとも婚姻が実質的に破綻しているといえるでしょうから、本条の適用はない、ということになるのです。問題は夫婦関係が破綻していない場合には取り消すことができるのかどうかですが、この点についての判例はありません。本題のような契約を締結し未だ不倫をしてはいないが、やはりあの契約は拙かったと思って取消を主張した場合には裁判所がそれを認めるかは未知数ということになります。
なお、内縁関係では754条の適用はないといわれています。
書面化の際のポイント
まずは、極端な数額を内容とする契約とすることは避けた方がいいでしょう。「全財産」などあまりにも過大に過ぎるようなものもかえって契約の有効性に疑義が生じかねません。どれくらいの額が妥当かは、これまでの不倫の経緯や回数、頻度、程度も考慮しつつ、基本的には資産、年収をベースに計算することになるので、人によりけりということになります。人によるのですが、この点がポイントとなってきますので一度弁護士に相談することをおすすめ致します。
適当な書面を作成してしまえば気にする点は夫婦間の契約の取消権についてですが、書面の中で民法754条の適用を制限することが考えられます。制限したところで確実に取消権の行使を制限できるのかは何ともいえませんが、あるに越したことはないでしょう。
また、どうしても確実な支払を求めたいのであれば公証役場で公正証書を作成するなどということになりますが、現実的にはそこまでする人がどれほどいるのか疑問です。もちろん、作成することはできますから、その場合は弁護士にご相談ください。
表題の「次浮気したら慰謝料1億円支払え」という契約は相手の年収によっては問題ない場合もありますが、平均年収(2015年は440万円(平均年収ランキング2015))からすれば過大として無効となる可能性は高いといえます。このような契約はその有効性以上に心理的な防波堤を目的としてなされるのでしょうから、実効性を追求しすぎるのも…とは思いますが、実効性があってこそ目的がより実現されやすいのではないでしょうか。相手の不倫にお悩みの方は一度考えてみるのも良いかもしれませんね。