遺言を作るときに注意したい5つのこと
- 2015/8/11
- 親族・相続
その1-遺言の種類、要件
遺言には、大きく分けると、一般方式と特別方式の2種類があり、さらに一般方式は3種類、特別方式は4種類に分けられます。
あらかじめ相続に備えておくという意味での遺言は、一般方式となります。特別方式は、大きく、緊急時遺言と隔絶地遺言の2種類に分かれ、緊急やむを得ず一般方式の要件を満たすことが難しいような場合に使われるものですので、通常は、一般方式の遺言を押さえておけば問題ありません。
一般方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
遺言を残しておこうとする方がよく用いるのは、自筆証書遺言と公正証書だと思いますが、秘密証書遺言も併せて解説します。
いずれもその形式について法定の要件があるほか、遺言者に、遺言能力という判断能力がないと無効です。
遺言能力というのは、文字通り遺言をできるだけの意思能力(判断能力と思ってもらえれば大丈夫です。)のことをいいます。この遺言能力は比較的緩やかに考えられていて、15歳になれば有効な遺言をすることができますし、成年被後見人であっても、正常な判断能力が戻っている状態だと言えれば有効な遺言をすることができます。
形式要件については、以下の通りです。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、その名の通り、自筆でする遺言のことです。最も簡単な遺言書作成の形式ですが、デメリットもあります。
自筆証書遺言の形式としては
・ 全文を自筆で書くこと
・ 署名、押印のいずれもすること
・ 日付を具体的に記載すること
が必要です。逆に言えばこれだけです。非常に簡単に手間をかけずにできるので、遺言内容がシンプルな場合は、お勧めできる方式です。
ただし、デメリットとして、次の点に注意が必要です。
・ 形式を厳格に守っておかないと無効になる(e.g. 日付を「平成27年8月吉日」などと記載するのはNGで、無効になる。)。
・ 内容を専門家に確認してもらわないと結局、実現したい内容に沿わないものになる可能性がある。
・ 遺言能力が争点になりやすい。
・ 遺言書を紛失したり、死後に発見されない可能性がある。
・ 検認手続という手続を経る必要がある。(※ 検認とは、遺言書の外形等を裁判所で確認し、偽造や変造を防止するための手続です。)
これらのデメリットを考慮しても、その作成の簡易さは魅力的ではありますし、「ひとまず」という意味合いで遺言を作成するときはこの方式で作っておくのもありだと思います。
公正証書遺言
遺言書作成の王道といえる方式です。
まず、公正証書とは、私人間の権利関係などについて、公証役場において公証人が作成する公文書です。公正証書遺言は、この公正証書という制度を用いてする遺言です。
公正証書遺言の形式としては、
・ 証人二人以上の立会いがあること。
・ 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
・ 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
・ 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
・ 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
が必要です。公正証書によることで、少なくとも形式の不備で無効といった悲しいことにはならないのが強みです。
また、公正証書遺言の場合は、一応、公証人が遺言者の遺言能力がある前提で作成することになるので、自筆証書遺言よりは遺言能力なしで無効となるケースも少ないといえるかもしれません。遺言書を公証役場で保管してもらえるため、紛失や盗難などの心配もありません。
さらに、公正証書遺言を実際に文書に書き起こすのは公証人ですので、文字がかけない人でも遺言書を作れるという点も大きなメリットといえます。
なお、公正証書遺言については、遺言者の死亡後に利害関係人(相続人や、遺贈を受けたと思われる人)が検索することができます。遺言者が存命の間は、遺言者のみが検索することできます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、その存在のみを公証役場に記録するものです。
ただし、証人が二人以上必要であるとか執行にあたり検認が必要になるなど公正証書遺言や自筆証書遺言のデメリットがあるにもかかわらず、あまりメリットがないです。ここまでやるなら、公正証書遺言にしますわ思う人がほとんどかと思います。
形式要件は、
・ 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
・ 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
・ 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
・ 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
です。
メリットがあるとすれば、署名押印さえあれば、代筆やパソコンで内容を作成していても形式要件を満たせる点でしょうか・・・
その2-遺留分を侵害するか
さあ、遺言の方式を決めたら次は内容です(別に内容から決めてもいいのですが)。
内容については、「全財産をAに相続させる。」などのシンプルなものであれば、インターネットや書籍などから例文を借用して作ることもできると思いますが、きちんと自分の希望を叶えたいのであれば一度は専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
どのような内容であれ、まず一番に気をつけるべきことは、相続人の遺留分を侵害しないかという点です。遺留分を侵害していると、遺留分を侵害された相続人から受贈者に対して遺留分減殺請求という請求がされる可能性があります。ただし、遺留分減殺請求は、遺留分を侵害された側からしなければいけない性質のものであり、そのために遺留分減殺請求がされない可能性もあるので、遺留分を侵害する遺言が直ちにダメだというわけではありません。
ただ、遺留分減殺請求されない前提で遺言の内容を決めておくのと、遺留分減殺請求される(かもしれない)前提で遺言の内容を決めておくのでは、遺言者の意思に従った内容の実現可能性に雲泥の差があります。
もちろん、遺言書を作成した後に遺留分減殺請求できる相続人の変動があることもあります(先に法定相続人が死亡した場合など)。
その3-遺言執行者を指定するか
遺言執行者とは、遺言を実際に現実化する職務を負う人のことです。遺言によって遺言執行者を指定することができます。
たとえば、遺産分割の禁止といった遺言内容に執行は不要ですが、不動産の遺贈を受けた人に引き渡しや登記移転の手続をしたり、認知の遺言があればその届出をしたり、することになります。
遺言執行者は、遺言で自由に指定することができますが、未成年者と破産者は遺言執行者になることができません。ただし、この資格要件は遺言作成時ではなく遺言の効力発生時を基準として判断するものとされています。
遺言執行は権利関係や法的手続が多く絡みますので、弁護士(できれば弁護士法人)を指定するのが最も合理的かと思います。信託銀行などが遺言執行者に指定されていることもありますが、たとえば遺贈を内容とする遺言の遺言執行者を信託銀行に指定していても、受贈者と相続人間に争いが生じると、信託銀行としては、報酬を得て紛争解決などの法律事務を扱うことを禁止した弁護士法72条に抵触することをおそれて遺言執行者への就任を拒絶することが多いようです。
結局、紛争性の内在する遺言の執行については、弁護士又は弁護士法人に依頼しておくのが最も無難ということができそうです。
その4-遺産分割を禁止するか
遺産分割は、相続開始後いつでもできるのが原則ですが、遺言により、これを最大5年間まで禁止することができます。これは、自分の死後に相続人間で揉め事が起こりそうな場合に、相続人らの頭を冷やす期間を設ける意味や、相続人の中に未成熟の子がいる場合などにその子の成熟を待つことができるなどのメリットがあります。また、相続人の中に余命が長くないと思われる人がいるような場合も、その人を遺産分割協議の負担から解放したり、相続による権利関係の複雑化を防ぐことができます。
遺言を遺す側として、最終的な目的を常に考えながら、遺産分割禁止条項を入れるか否かを考えてみるのもいいでしょう。
その5-相続税その他の税金を払えるか
相続税は、遺産が一定金額以上ある場合には、亡くなった日の翌日から10カ月以内に、相続税の申告をする必要があります。
相続税が発生するかどうかの計算式は、遺産に係る基礎控除額を超える資産があるか否かで決まります。
基礎控除額は、3000万+(600万×法定相続人の数)と定められています。
ですので、たとえば法定相続人が2人のケースでは、4200万円を超える資産があると相続税が発生します。
そうすると、数千万とか1億円以上の資産が遺されるケースでは、相続税を支払わないといけません。それくらい資産遺ってれば払えるでしょ?と思われる方もいるかもしれませんが、実際には、税金は現金で払いますので、たとえば1億円の価値ある不動産が遺されていたとしても、それを現金化しなければ相続税を払えないということも普通にありえることです。
他方で、遺言者としては、その不動産を特定の誰かに上げて住み続けてほしいと考えていることも多く、受贈者が相続税を払うために不動産を手放さなくてはならないとなると本末転倒です。
こういった自体を避けるために、あらかじめ相続税のことも、概算で構わないので、計算にいれて遺言を作っておくべきでしょう。
その他、相続税ほどではないですが、固定資産税や登録免許税といった税金のことも頭に入れておきたいところです。なお、不動産取得税については、相続により不動産を取得した場合には課税されません。