全然違う!支払督促と少額訴訟って何が違うの?
- 2015/9/2
- diary
債権回収するために裁判は気が重い・・・というあなたに。
裁判ってなんだか難しそうだし、費用もかかりそう。手っ取り早く回収したいし、請求額も少ないから弁護士頼むって感じでもないんだよね。。。
こんな場合に利用されることが想定されて作られた制度、それが、「支払督促」と「少額訴訟」です。
どちらも裁判所を利用した迅速な債権回収手段という点では同じなのですが、内容は全く違います。強いていえば、どちらの手続も弁護士はほとんど利用していないという点は共通でしょう。ただし、弁護士が利用しないことには理由があり、個人の方が弁護士に依頼せず利用するには価値がある場合もあります。詳しく見ていきましょう。
何が違う?支払督促と少額訴訟。
よくこの2つはセットになってウェブや書籍上で紹介されています。しかし、この2つの制度は前述の通り全く違う制度です。この2つの制度についてみてみましょう。
支払督促
支払督促は、債権を回収したい人が簡易裁判所の書記官に申し立てることにより、この裁判所書記官が債務者に対してお金を払うように書面で命じるものです。
通常、訴訟であれば証拠を提出して裁判を開かなければなりません。しかし、支払督促は証拠の提出も不要ですし、裁判を開く必要もありません。簡易な書類審査のみが行われるだけで明らかに請求の理由がない限りは支払督促が発せられます。申し立ても郵送のみで可能な上、印紙代も訴訟の半額となります。以上の手続のみですから、訴訟と比較して極めて迅速な債権回収が可能です。また、後述の少額訴訟には金額の制限がある一方、支払督促は債権額に制限がありません。
形式的な面での不都合でいえば、債権者が日本にいない場合や債権者の住所等が分からないといった場合には利用できません。支払督促は国内での利用に限られているうえ、公示送達という手段を用いることができないとされているからです。
支払督促を受けた人が何もしないでいると、強制執行もすることができるようになってしまうので、支払督促を受けた債務者は債権の存否や債権額について争わなければ本当に強制執行されてしまったりして大変なことになります。これを悪用して、架空請求詐欺などに支払督促制度が使われたという報道もあります。
もっとも、支払督促に対しては異議を述べることができ、異議を述べた場合は通常の訴訟手続に移行することになっていますので、通常は、債務者としては異議を出すでしょう。この点については後述します。
少額訴訟
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを目的とする場合に訴えにより審理及び裁判を求めることができるという制度です。通常の訴訟と異なり一期日審理の原則が定められていますから、特段の事情がない限り1回の期日で審理が完了します。証拠や証人に関してもこの期日に即座に利用できる場合のみ用いることができます。また、控訴することも禁止されているので、審理の長期化はまずないでしょう。したがって、60万円以下の支払を迅速に求めたい場合に利用が想定されている制度であるといえます。
ただし、相手が少額訴訟ではなく通常訴訟をしたいと申述した場合には当該制度を利用することができません。相手方は反訴を禁じられており訴訟を起こし返すことができないので、相手が反訴を提起したい場合には利用できないでしょう。
支払督促と少額訴訟なら弁護士は不要?
実際に利用しようとすれば、誰でも簡単に利用できるのがこの支払督促と少額訴訟のメリットでもあります。したがって、これらの制度をりようするならば弁護士は必要かといわれれば、必ずしも必要ないということがいえます。もちろん、支払督促の申立書や少額訴訟の訴状を書いて欲しいと弁護士に依頼することは可能です。
もっとも、次のような理由から、弁護士はこれらの制度の利用に積極的でないのが一般です。
弁護士が支払督促を利用しない理由
まず、支払督促からいえば、相手方が異議を述べた場合には通常の訴訟に移行するので最初から通常の訴訟を用います。
なぜなら、支払督促を受けた相手方は何の制限もなく異議を述べることができるからです。異議の仕方も支払督促に添付されています。支払わない債務者はできるだけ支払を遅らせようとする場合が多いでしょう。この異議を述べるのは支払督促の送達を受けてから2週間以内とされており、意図的にギリギリに異議を述べるなどして支払いを遅らせることができてしまいます。異議後に通常の訴訟になってしまうのであれば、最初から通常の訴訟を提起した方が結局は早いですよね。
また、弁護士が支払督促を用いないもう一つの理由は、管轄裁判所が相手の住所管轄に限定されていることです。相手方の住所地が遠方である場合には、支払督促後、裁判になる可能性があることを考えると、これは非常に辛いです。弁護士を頼む側としても、交通費などの実費がかかるリスクを負うことになります。
では、支払督促って誰が使うんだって話ですよね。これは、消費者金融会社等、多数の債権を有する会社が同時かつ一斉に利用できる制度として利用されているのです。数打てばあたるではないですが、支払督促を受けた債務者も中には異議を申し立てない場合もあるのです。
また、支払督促から訴訟に移行したとしても消費者金融等としては困りません(弁護士雇う資金力もあるし、裁判も定型的かつ証拠が揃っていることが多いためです。)。つまり、支払督促とは日常定期的に債権回収を行うような人や会社にとってはすごく便利なのです。。
逆に、日常定期的に債権回収を行うわけではない会社や個人がこの制度を利用することによるメリットはほとんどないでしょう(しかし、債務者がもし裁判所からの支払督促を無視する豪胆な性格であれば、やってみてもいいかもしれません。)。
弁護士が少額訴訟を利用しない理由
少額訴訟は、支払督促と異なり、訴訟手続ですので裁判所に訴状を提出して裁判官が判決を書きます。
しかし、弁護士からすれば、正確さを犠牲にしてまで迅速さを求めた方がいいケースというのはあまりないと考えてしまいます。もし、圧倒的に証拠が揃っていて圧勝間違いなし、なのだとしたら、通常の裁判でもそう長引くことはないので、通常訴訟を提起します。
さらにきついのは、この唯一の期日のために証拠や証人をあくせく集めても、相手方が通常訴訟を希望した場合には当日にこれらの証拠や証人が利用されることはありませんので、苦労が無駄になってしまうことがあるのです。
とはいえ、少額訴訟を用いるメリットは全くないのかというと、そんなことはありません。
たとえば、双方弁護士がついてない状態で、ある程度の客観的な審理を経て裁判官に判断を委ねたいと当事者同士が望んでいる場合であれば、迅速に解決できるという点はやはりメリットとして大きいため、利用する価値があるといえるのではないでしょうか。