何が違う?刑事事件と民事事件の関連性。

裁判とはいうけれど

たとえば、交通事故を起こすと警察が捜査して、事故の大きさによっては検察官により起訴されるに至ります。この一連の流れは刑事事件に関するものであって、事故の当事者間のトラブルを解決するものではありません。具体的には、交通事故で人に怪我をさせた場合には、過失運転傷害罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)にあたり、起訴され有罪となる可能性があります。

一方、被害者としては、単に加害者が罰せられればよいというわけではなく、当然、事故によって生じた損害を賠償してもらいたいと考えるでしょう。

前者が刑事事件であり、後者が民事事件にあたりますが、順を追って説明致します。

 

刑事事件とは

刑事事件とは、裁判所が刑罰法令の適用に関する事件を取り扱う場合のことをいいます。つまり、検察官が、裁判所に対して、加害者等が起こした犯罪と疑われる事実について刑罰を科すように起訴することをいいます。上記の交通事故の例でいえば、自動車の運転をするのに必要な注意を怠って事故を起こして他人の怪我を負わせた場合、検察官が当該加害者を過失運転傷害罪で起訴することになります。この場合、上記罪を犯したことが認められれば、刑罰が科されます。過失運転傷害罪であれば7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。一方、実は運転している人が違ったといった場合や運転上必要な注意をしていたといったような場合には、無罪となります。なお、犯罪と疑われる事実があったとしても、そのことについて起訴するか否かは検察官の判断に任されることになっています(これを起訴便宜主義といいます。)。したがって、交通事故を起こしたからといって必ず起訴されるわけではありません。

上記の例において、事故で怪我をした被害者は手続に出てきません。このように刑事事件においては基本的には被害者は当事者としては登場しないのです。被害者が刑事手続きに参加できる被害者参加制度については後述します。なお、この加害者に罰金刑が科されたとしても被害者にこの金銭が支払われるわけではありません。

 

民事事件とは

民事事件とは、審判の対象が、私法によって規律される事件のことをいいます。そして、私法とは国民相互の関係を規律するものをいいます。上記の交通事故の例でいえば、被害者が加害者に対して事故で生じた損害について賠償請求をすることにより、被害の回復を図ることになります。つまり、被害者が裁判所に対して、加害者がお金を払うように請求する訴訟を提起することになります。民事事件については必ず裁判で金銭の支払いを求める必要はなく裁判外において当事者同士で問題を解決することも可能です。

 

刑事事件と民事事件との違い

両者の最たる違いはその目的です。

刑事事件は、「公共の福祉の維持と基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的」(刑事訴訟法1条)としています。つまり、加害者が捜査や裁判で人権を蹂躙されるようなことがないことを前提に、何があったのかなかったのかを明らかにして、刑罰法令を適用するか若しくはしないのかを判断していくのが刑事事件です。

一方、民事事件は当事者間のトラブルについて解決を図ることが目的です。買ったものを売り主が渡さないなら渡すように請求し、一方売り主としては代金を支払うよう請求するような場合に、どちらも渡さず支払わずではトラブルが発生したといえます。この場合に、なぜ渡さないのかなぜ支払わないのかといったことを明らかにしながら、結局渡すべきか支払うべきかについて裁判所に法律に基づいて判断してもらい解決するのが目的ということになります。

目的が違う以上、その主体にも違いが生じてきます。

刑事事件の主体は検察官と加害者です。加害者は捜査段階では被疑者、起訴されると被告人と呼ばれます。刑罰を科すことは国家作用です。つまり、加害者に刑罰を科すには国側がそれを立証しなければなりません。被害者は被害届の提出や告発という形で国家作用の発動を促すことはできても刑罰自体を科すことはできないのです。

一方、民事事件は国家が関与しない当事者間でのトラブルを解決するのですから、その主体も当事者同士となるのです。裁判においては訴えを提起する側を原告、提起される側を被告といいます。「被告」と「被告人」とではその意味が異なりますので注意が必要です。

 

刑事事件と民事事件との関連性

上記のように刑事事件と民事事件とではその性質は大きく異なるのですが、相互に関連してくる部分もあります。たとえば、交通事故や喧嘩といった場合に、相手に怪我を負わせたことは民事上不法行為とよばれるものになりますし、刑事上は前者が過失運転傷害罪、後者が傷害罪となります。

まず、不法行為とは民法709条に定められており、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」とされています。「故意」は「わざと」、「過失」は「不注意」と考えてください。つまり、交通事故で他人に怪我を負わせることは、交通事故を不注意により起こしてしまったのであれば、怪我をした人に賠償する責任を負うことになります。喧嘩で他人に怪我を負わせることは、わざと相手に暴行を働いて怪我をさせたのですから、怪我をした人に賠償する責任を負うことになります。刑事上も交通事故であれば過失が、喧嘩であれば故意がそれぞれ要求されます。

このように同一事件について刑事事件にも民事事件にもなる場合があります。先ほどの売り買いの例でも、渡さなかったり支払わなかったりする理由が詐欺されたからという場合には、民事上はその売り買いの契約を取り消すことができますし、刑事上詐欺罪として起訴されることも考えられます。もっとも、同一事件であっても、民事事件と刑事事件はそれぞれ別の手続きで行われることに注意が必要です。裁判所も違えば裁判官も異なります。

一定の刑事事件については被害者が当該手続きに関与する被害者参加制度や、刑事事件と併せて損害賠償請求することができる損害賠償命令制度といったものが用いられています。特に損害賠償命令制度は民事事件と刑事事件との制度的な交錯ともいえます。

簡単にですがこれらの制度についても見ていきましょう。

 

被害者参加制度

刑事事件は、裁判官、検察官、被告人、弁護人の4者が法廷で進める手続きです。したがって、刑事事件に被害者が参加したくても、以前は被害に関する陳情等の意見陳述のみで主体的な関与は不可能でした。もっとも、現在では被害者参加制度というものが用意されていまして、一定の刑事事件に関しては被害者が主体的に手続きに関与できるようになっています。

まず、参加できる事件は刑事訴訟法316条の33各号に定められている以下の通りです。

1号 殺人、傷害、傷害致死、強盗致死傷など故意の犯罪行為により人を死傷させた場合
2号 強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ、準強姦、業務上過失致死傷罪、逮捕罪、監禁罪、未成年者略取及び誘拐罪、営利目的等略取及び誘拐罪、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐罪、人身売買罪、被略取者等所在国外移送罪、被略取者引き渡し罪
3号 前号に掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(第1号に掲げる罪を除く。)(強姦致死傷罪、監禁致死傷罪など)
4号 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪、過失運転致死傷罪、無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪、無免許過失運転致死傷罪
5号 1号から3号までに掲げる罪の未遂罪

次に、被害者参加制度によって被害者ができることは次のものになります。

公判期日への出席 被害者も刑事事件における審理を行う期日に出席することができ、傍聴席ではなく法廷内で手続きに参加することができます。また、状況に応じて被害者に付添い人を付けたり被告人から見えないように遮へい措置をとることができる場合もあります(刑事訴訟法316条の39)。
検察官に対する意見表明及び説明要求 被害者が検察官の権限行使に対して意見を表明したり説明を求めたりすることができます。
証人尋問 被害者が証人に対して犯罪事実に関するものを除いた情状に関する事項(犯人の性格、年齢、前科前歴の有無、生活状態など犯人の属性に係る事情や被害弁償・謝罪・示談の有無、被害者側の事情、社会事情の推移、関連法規の変動など)について尋問(質問して、強制的に返答させること)することができます。
被告人への質問 被害者が被告人に対して質問をする必要がある範囲で相当と認められる内容について質問することができます。
弁論としての意見陳述 検察官が証拠調べ後に行う事実及び法律の適用についての最終意見陳述を行った後に、被害者も自らの考えに基づき以上の点について意見を陳述することができます。

被害者参加制度は利用可能な場合であっても、自らの判断で参加するか否かを決することができる制度なので、必ず利用しなければならないわけではありません。一方、起こった事件に対して自らも関与したいという場合であれば利用することをおすすめ致します。

 

損害賠償命令制度

本来刑事事件は被害者が関与することもままならなければ、被害についての損害賠償請求は別途民事事件で行う必要がありました。

しかし、民事事件で被害について回復しようとすると、加害行為があったことやそれが故意又は過失に基づくものであったかなど立証の点で負担になることがあります。また、刑事裁判が終わった後に民事事件をまた始めた際に時間的に多大な負担がかかることもあります。そこで、刑事事件の第一審判決後に引き続いて損害賠償命令の審理に移行して賠償金を被害者に支払うべきか否かの審理をすることが可能となりました(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律23条1項)。

引き続き刑事事件と同じ裁判官が審理をするので立証の負担が軽減されており、期日も4回までと限定されているので通常の民事事件より迅速に解決を図ることができます。さらに、この制度による賠償請求の可否や数額につき満足がいかなければ異議を申し立てて通常の民事裁判へ移行することも予定されています。この際には訴訟提起する必要がないのでその点の負担も軽減されることになります。

ただし、この損害賠償命令制度は利用できる刑事事件の範囲が限られていることが欠点です。以下のような範囲で定められています。

1号 殺人罪、傷害罪、傷害致死罪、強盗致死罪などの故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
2号イ 強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ又は準強姦の罪又はその未遂罪
2号ロ 逮捕及び監禁の罪又はその未遂罪
2号ハ 未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引き渡し等の罪又はその未遂罪
2号ニ 2号イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)(強姦致死傷罪、監禁致死傷罪など)

被害者救済制度と比べて過失犯が除かれるなどより範囲が限定されているのが現状です。

この制度を利用する際には検察官が起訴状を裁判所に提出してから弁論が終了するまでの間に申し立てをする必要があります。

 

おわりに

以上、刑事事件と民事事件の違いから、その間にある2つの制度について見てきました。

刑事事件に遭われてすでに大きな負担を負っている被害者に真相究明や被害回復のためとはいえ法廷トラブルに巻き込まれるのはさらなる負担かとは思います。とはいえ、放っておくと刑事事件は被害者が起訴段階で積極的に関与することはないため、最後までなんら関与することなく終わってしまう可能性がありますし、民事事件も不法行為であれば3年で時効により請求できなくなってしまいかねません。

被害者としては、何とか周囲や弁護士のサポートを受けながら、主体的に事件解決に関わっていくべきだといえるのではないでしょうか。

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