全額返金が原則!敷金はほとんど返ってくることを知ろう

 

敷金とは

家や土地を借りたことがある方であれば、必ずと言っていいほど「敷金」という言葉は耳にしたことがあるかと思います。不動産屋さんの店頭には賃貸物件情報の広告があって覗いてみると、「敷金1ヶ月礼金1ヶ月」といったような記載がありますね。

借りるときには「敷金」は引っ越し初期費用として当然に計算に含まれているというのが現状かと思います。

次に「敷金」を意識することになるのは、退去時など賃貸物件を返す時です。借りた家から引っ越すときに、以前支払った「敷金」が返ってくるという話になるかと思います(一切この話を切り出さない業者もあるかもしれませんが、普通は、敷金をいくら返すという話になります。)。

そして、「敷金」についてインターネットで検索することになるのは多くの場合退去時でしょう。つまり、「敷金」は返ってくるのか、ということを調べることが多いようです。

そこで、「敷金」は返ってくるのか、返ってくるとしてどの程度返ってくるのかを重点的に見ていきますが、まずはそもそも「敷金」は法律的にはどのようなものなのかを見ていきたいと思います。

 

敷金の法律上の立ち位置

敷金については民法上その性質が定められていません。法文上は316条や619条2項に「敷金」という記載はありますが、その性質全てが書かれているわけではありません。もっとも、この「敷金」概念は判例の積み重ねでその性質は明らかになっていますので、「敷金」を正確に知るには判例を見ていくことになります。

まず、「敷金」とは、賃借人がその債務を担保する目的で金銭を賃貸人に交付し、賃貸借終了のさいに賃借人に債務不履行がないときはその全額を返還するべく、もし不履行があるときは、その金額中から当然にその債務不履行による債務の弁済に充当されることを約して授受する金銭であるとされています(大判大正15.7.12民集5.616)。難しいですね・・・笑

つまり、賃貸物件を返す際にこの賃貸借契約に関してあなたが支払うべきお金があれば、これを敷金から差し引いて残ったものを返します、というものになります。この賃貸借契約に関してあなたが支払うべきお金とは、延滞賃料だったり、原状回復費用だったりといったものになります。

気をつけなければならない点として、引っ越しが決まったからといって解約までの残り1ヶ月の賃料を支払わないで敷金から充当してくれ、といったようなことは借り主側から言うことは認められていません(大判昭和5.3.10民集9.253)。敷金から何を差し引くか決めるのは貸主側とされています。

また、賃金を支払い続け、契約期間を満了した場合に、敷金を返してくれるまでは賃貸物件を返さないと言えるのかという質問を受けることもあります。結論としては、いえません。賃貸物件を返してはじめて敷金を返してくださいといえるということです(最判昭和49.9.2民集28.1152)。理由はいくつかありますが、賃貸物件を返してもらってはじめて原状回復にいくらかかったかわかるので、先に返してしまっては敷金からこれを差し引けないということになってしまうということが一つ言えるでしょう。

つまり、敷金はどの程度返ってくるのかというと、賃貸借契約に関してあなたが支払うべきお金を差し引いて残った額、差し引く額がなければ全額、ということになります。賃料を延滞していたといったような場合まで敷金を返せとはいえないことがほとんどでしょう。差し引いた結果敷金が残らないといった場合ですね。もちろん、延滞賃料を差し引いてもなお敷金が残っていれば残額を返してくれとはいえます。

 

敷金と原状回復

通常敷金を返してくれといった争いで問題になるのは原状回復費用がどの程度か、ということになります。賃料など滞りなく支払ってきた借り主が敷金を返して欲しいといった場合にいくら返ってくるかは原状回復費用次第になることが多いと思います。

原状回復というと、借りたときの状態にきれいに戻して返すこと、というイメージかもしれません。黄ばんだ壁紙を元の白い壁紙に戻すといったことや、フローリングのくすみ、畳の劣化、などなどこれらをきれいさっぱり元に戻しましょうといったものです。しかし、このイメージは誤りです。きれいさっぱり元通りという回復は借主に求められていません。

賃貸借契約は、「物の使用」を借り主にさせることです。そして、借り主は借りた物について善良な管理者としての注意義務(善管注意義務といいます。)を負っています。つまり、善管注意義務に従った通常の物の使用によって生じる劣化摩耗については本来使用により想定されたものであり、この摩耗については既に賃料という形で貸し主に支払っているということになります。異常な使用によると考えられる劣化摩耗や善管注意義務に反して生じた損害については原状回復する義務があるといえますが、通常の使用によって生じた劣化摩耗は借り主が回復する必要はないのです。

国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」が原状回復の内容となります。この基準に法的拘束力まではありませんが、実務運用上これに従うことがほとんどといえるので、この基準により原状回復すべきか否かを決めることになるでしょう。

ちょっと小難しいかもしれませんが、要するに、賃料も支払い普通に使ってる限りでは敷金は全額返ってくるべきなのです。もちろん、普通に使ってというのは上記の基準によっても評価を含むものなので、個別に判断すべきとしかいえません。賃貸物件は自分でできる限りきれいに掃除して返すことが望ましいといえるでしょう。

ハウスクリーニング特約

では、先ほどのイメージのようにフローリングのくすみなどについて貸主との間で借り主が負担するといった取り決めを事前にしていた場合はどうなるでしょう。賃貸契約書を見てみると、そのような記載がされていることがあるかと思います。このような取り決めが有効であればこれも敷金から差し引かれることになるでしょう。

この点について、判例は、このような修繕義務は貸主が負うのであって敷金から差し引くことはできない旨を確認しつつ、修繕義務を借り主が負うというような取り決めも有効な場合はあるとしました。ただし、この取り決めが有効であるというには条件がつけられており、「賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,①賃借人が補修費を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,②賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。」として、かなり厳格に判断するとしています(最判平成17.12.16判時1921.61)。

つまり、契約書にどこを補修するのか具体性をもってちゃんと書いてあるか、口約束の場合には借り主がこの取り決めをしっかり納得したといえるような状態でなければ、取り決めがあったとは認めないということになります。

実際に多いのが、退去後の清掃費用(ハウスクリーニング費用)は賃借人負担とするといったことが契約書に書かれている場合です。しかし、上記判例の考え方からすると、必ずしも借り主の費用負担になるとは限りません。たとえば、フローリングのワックス清掃など具体的に補修の範囲が書かれていなければ、当該取り決めは有効にはなりませんから、敷金から差し引かれることが許されないとされることも多いのです。

 

敷金を返してもらうまでの流れ

まずは大家さんや管理会社と話し合いによる解決を目指すことになります。「これこれの費用は原状回復をめぐるトラブルとガイドラインによれば貸し主負担のはずだから、敷金から差し引くことなく返還してください」というふうに丁寧に交渉しましょう。話し合いで解決しなければ次は内容証明郵便により書面で交渉を続けます。書面の方が口約束よりも明確に記録として残りますし、貸主側も借り主側が本気だぞとわかって対応してくれるケースも十分にあるからです。

最後の手段としては訴訟が考えられます。この場合は、ご自身で少額訴訟を提起するといったことが敷金返還訴訟ではポピュラーでしょう。少額訴訟については全然違う!支払督促と少額訴訟って何が違うの?をご覧ください。

しかし、実際には裁判を起こすまでもなくほぼ全額の敷金が返ってくることが多いと思います。どうしても話し合いで解決できない場合には、弁護士から内容証明を出して交渉してもらうなどの方法もあります。弁護士費用はかかりますが、裁判などを起こさずに解決できる可能性は高まるでしょう。

 

敷金についての法改正

敷金については、今後予定されている民法改正により法定されることが予定されています。とはいえ、ここまで見てきたことが何か変わるといったことはありません。判例の蓄積に対応する形で民法に敷金を明記するといったものなので、その内容に何か変更をきたすものではないからです。

原状回復義務についても、改正案では「賃貸人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によってしょうじた 賃貸物の損耗並びに賃貸物の経年劣化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を現状に復する義務を負う。ただし、そのそんしょうが 賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」となっていますので、上記のガイドラインが踏襲されているといえるでしょう。

その他民法改正については知っておきたい民法改正の6つのポイントをご覧ください。

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