自己破産について知っておきたい3つのこと

怖くないよ、自己破産

自己破産をしたら身ぐるみ剥がされて住む家もなくなり辛い生活が待っているのではないか、なんてお考えの方がいらっしゃるかもしれません。そんなことはありません。

個人破産の場合は、経済生活の再生が目的にもなりますので、経済的再生を構築するのに必要な範囲の財産については「自由財産」として、自らの手元に残ります。したがって、身ぐるみがはがされたりすることはありません(まあ、評価の問題なので、そう思われる方もいるかもしれませんが。)。

詳細を見てみましょう。

まず、差押禁止財産とよばれるものが自由財産となります(破産法34条3項各号)。標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して制令で定める額の金銭(民事執行法131条3号)に2分の3を乗じた額については差押禁止財産として自由財産になります。現在、この額は99万円とされています。99万円までの財産を手元に残せるということですので、意外と多いと思いませんか?

この金銭以外に民事執行法やその他特別法に定められている差押禁止財産は以下のものになります。

民事執行法131条1号 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
同2号 債務者等の一ヶ月間の生活に必要な食料及び燃料
同4号 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
同5号 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
同6号 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前2号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物
同7号 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
同8号 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
同9号 債務者に必要な系譜、日記、商業登記及びこれらに類する書類
同10号 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
同11号 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
同12号 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
同13号 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
同14号 建具その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
民事執行法152条1項1号 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権の4分の3に相当する部分
同2号 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権の4分の3に相当する部分
同2項 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給与の4分の3に相当する部分
労働基準法83条2項 労働者の補償請求権
生活保護法58条 生活保護受給権

このほかにも、性質上差し押さえが禁止となるものとして、慰謝料請求権など一身専属性が認められる債権についても差押禁止財産として自由財産になります。

なお、この差押禁止財産については裁判所が縮減(破産法34条3項2号、民事執行法132条1項)や拡張(破産法34条4項)をすることが認められている点には注意が必要です。

この差押禁止財産以外にも、新得財産や破産管財人が財団から放棄した財産、自由財産の範囲の拡張の裁判がなされた財産が自由財産になります。新得財産とは、破産者が手続開始後に労働の対価として得た給料などです。破産管財人が財団から放棄した財産は、破産管財人が換価不能ないし費用倒れになるなどの理由により破産財団から放棄した財産です。そして、この自由財産は裁判所が拡張する場合もあります(破産法34条4項)。自由財産の拡張については裁判所によりその運用が異なりますが、東京であれば当該財産が20万円以下であれば拡張してくれることが多いようです。

このように、破産する人にとっての生存権や最低限度の生活保障を考慮して、生活のために必要な財産については破産しても手放す必要がない場合がほとんどです。なので、身ぐるみを剥がされてすぐ飢え死にするかもしれないということはない、といえるでしょう。

住む家については後述することにしますが、破産したら即刻出て行けということにはなりません。最低でも退去するまでの準備期間は設けられます。

破産をしたらどうなるのか、まずは自分の場合、どうなるのかということを弁護士に相談して具体的にイメージした上で、破産するか否かの判断をしてください。イメージだけで破産を悪とは決めつけずまずは知ることから初めてみるのはいかかでしょうか。

破産という手段は、債務者にとってはかなり前向きな制度だといえます(逆に債権者にとっては債権がほぼ返ってこないので、かなりつらいです。)。

破産するとマイホームを手放さないといけない?

先ほど破産した場合に手元に残る「自由財産」についてみました。全てに目を通していただいた真面目な方はお分かりかもしれませんが、家・住居についてはこの自由財産には該当しません。

家の価格が20万円を下回るようなことは通常考えられませんから、自由財産の拡張によっても手元に残ることはありません。つまり、マイホームについては破産をすれば手放さなければならないということになります。または、家に抵当権が設定されているなど担保に供されていれば破産によって競売に出されることになります。

もっとも、破産をしたらすぐに執行官のような人が家にやってきて出て行けと言われることはありません。家を探すまでのある程度の猶予はあり、この間に今後住むための家を見つけて引っ越すことになります。

先祖代々その家に住んでいるから手放したくないといった方など、経済状況は厳しいが家は手元に残したいというような場合であれば、破産ではなく民事再生によることになります。民事再生については別の機会にみていくこととします。

自己破産をすると仕事を失う!?

自己破産をするといまやっている仕事はクビになるの!?という質問をされることがあります。

基本的に仕事がクビになることはありません。というか、破産したことを誰かに気づかれること自体があまりないといえます。直接破産手続を進行している行為自体が見られてしまうことがあるかもしれません(弁護士事務所とのやりとりや裁判所で見かけられた等)。また、破産すると官報に掲載されることから、官報を見ているような人であれば気づくかもしれませんが、あまり高い確率とはいえないでしょう。ただし、今はウェブ上で官報を読むこともできるので多少確率は上がったといえるかもしれませんね。

とはいえ、破産したことが会社に発覚してもこれだけを理由に解雇すれば不当解雇になるのが通常です。破産だけを理由にクビにすることは法律的に許されていないといえるでしょう。

しかし、全ての職種が仕事を失わないわけではありません。一定の職業は破産によりその資格を制限される場合があるからです。破産により資格が制限される職種の例として以下のものがあります。

弁護士(弁護士法7条の5)、司法書士(司法書士法5条3項)、公認会計士(公認会計士法4条5項)、税理士(税理士法4条3項)、行政書士(行政書士法2条の2)、宅地建物取引主任者(宅地建物取引業法18条3項)、警備員(警備業法14条)、鉄道事業役員(鉄道事業法6条3項)など。

これ以外にも多くの職種がありますので、「”自分の職種””破産”」で検索して調べてみるのもいいと思います。

なお、貸金業者や旅行業者も職種制限を受けていますが、これは当該法人が破産した場合に当該法人が貸金業を営めないという意味であって、その従業員等が破産をしても影響はないのでご注意ください。

 

 

 

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