高次脳機能障害について知っておきたい3つのこと

ポイント1-高次脳機能障害って何?

交通事故によって頭部に衝撃か加わり脳が損傷されると、その部位や程度に応じて様々な障害が起こります。もっとも重度な障害としては四肢麻痺や植物状態がありますが、そこまでには至らなくても、色々な身体の障害や精神の障害が起こり得ます。

「高次脳機能障害」とは、このような脳の障害の中でも、精神の障害を伴うものを指します。しばしば「認知症」と混同されがちですが、必ずしも知能低下や記憶障害がおこるとは限らないという点で認知症とは異なります。このような一見して分かりやすい障害を伴わないケースでは、障害が表面化しづらく、本人や周囲が把握することが難しいため、適切なケアや評価を受けられない場合もあります。

目立った症状が出ていない場合でも、怪我をした際の診断書に「脳挫傷」、「頭蓋骨骨折」、「急性○○血腫」、「びまん性脳損傷」、「慢性硬膜下血腫」、「頭部打撲」などの傷病名がついている場合には、高次脳機能障害が残っているかもしれませんので注意が必要です。

少なくとも、交通事故で上記のような診断がされてしまった場合には、できるだけ早く弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

ポイント2- 高次脳機能障害の症状

では、高次脳機能障害になるとどういいた症状が出てくるでしょうか。一般的に以下のようなものがあります。外からみてすぐに分かる障害もありますが、各種の検査を行って、初めて判明する場合もあります。

 

症状 具体例
注意障害 対象を選ぶ(選択性)、対象への注意を持続させる(持続性)、対象を切り替える(転導性)、複数の対象へ注意を配分する(分配性)などができず、注意を適切に向けられない。 視界で物が動くなどの刺激で日常動作が中止される。指示をされないと日常動作を続けることができない。
遂行機能障害 目標の設定、計画の立案、計画の実行、効率的な行動などができず、物事を段取りよく進められない。 料理などを行う際、何から作業を始めたらよいか分からない。作業が中断された際に、適切に再開できない。
記憶障害 記憶の三段階である、記銘(短期的に記憶すること)、保持(記憶した内容を覚えておくこと)、想起(記憶した内容を思い出すこと)のいずれか1つ以上の機能が上手く働かない。 新しいことを覚えられない。発症以前に覚えたことを思い出せない。

簡単な計算や聞いた言葉の繰り返しができない。

社会的行動障害 感情を適切にコントロールすることができなくなり、社会的に不適切な行動をとってしまう。 本能的な衝動に任せて行動する。羞恥心が欠如する。

すぐ怒る。

他人や物事に興味がない。

無気力で自発的に行動できない。

失語 読む、書く、話す、聞くなどの言語機能が正常に働かない。失読、失書の症状として表れることもある。 言葉をつないで文を組み立てることができない、一つの言葉の中で文字を間違える(ヒダリ→ミダリなど)。文脈のつながりが前後する、新造語を話す、他の単語に言い誤る(時計→眼鏡など)。
失行 目標とする動作を正確に遂行できない状態。原因として、身体機能の障害、失語による理解障害、半側空間無視などの空間性障害、注意障害などがありえる。 手を振る、ドアを開けるといった簡易な動作を指示された際に、その指示が理解できないか、行動に移すことができない、毎回正確に行動することができない。
失認 視覚障害がないにも関わらず、物をみて何であるかを表すことができない。特殊な失認として、相貌失認(顔を見ても誰かが分からない)、地誌的見当識障害(見渡せる範囲を超えて移動する際道に迷う)などがある。 物の形そのものを把握することができない。物の形は把握できるが、それが何か、どう使うかが分からない。

物の形とそれが何かは分かるが、言葉で説明することができない。

半側空間無視 左右の空間の片方について、視覚的に認識したり、物を操作したり、移動したりすることができない。 食事の際に皿の半分しか食べない(食べ物があることが認識できない)。着替えの際に衣服の上下・左右が分からない。

 

ポイント3-高次脳機能障害の検査

高次脳機能障害の疑いがある場合、主に脳の画像撮影による診断と、知能検査による診断を受けることとなります。既に高次脳機能障害の診断を受けている場合でも、症状の推移をみるために、継続してこれらの検査を受ける必要があります。

画像検査としては、一般的に、まずはレントゲン、MRI、CTの撮影を行います。受傷時に目に見える外傷や骨折がない場合は、MRIやCTを撮影していない場合もあります。その際は、できるだけ早めに撮影することが望ましいですが、特に、過去の出血が判明しやすいMRIT2*(ティーツースター)の撮影を依頼されることをお勧めします。

事故直後の画像では目立った所見がないとされた方でも、事故から3~6か月経過するうちに、脳の組織が腫れて膨張したり、逆に委縮したりすることがあります。そのため、当初は異常がないと言われた場合でも、改めてMRIやCTを撮影することをお勧めします。また、一般的な病院に置かれているMRIは解像度が低い(1.5テスラ以下)場合が多いですが、解像度の高い(3テスラ)のMRIを撮影されることで異常が判明するケースもあるようです。

これらの機器は、病院の規模によっては置いていない場合や、検査技師の技量により鮮明に撮影されない場合もありますので、必要に応じて他の病院を紹介してもらうなど、適切な検査を受けられる必要があります。

なお、新しい検査方法として、PETやSPECTなどの脳の血流を診断する検査もありますが、これらの検査は脳の損傷を明確に判断できるものではないため、現在のところは、自賠責における高次脳機能障害の後遺障害等級認定においては重視されていないように思います。しかし、裁判を起こす場合には一定の証拠となりえるため、もし可能なのであれば検査しておいてもいいかもしれません。

知能検査としては、一般的によく行われるものとして、WAIS-R成人知能検査法、WISC-R(未成年用)、MMSE(痴呆評価スケール)、三宅式記銘力検査、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)などがあります。これらの検査によって、単に精神障害があるかどうかだけではなく、多岐にわたる精神の機能のうち、どの機能が障害されているかを評価することができます。この他にも、それぞれの症状を個別に判断する詳細な検査もあります。

自賠責における等級認定では、単に知能検査の結果だけで障害を評価することはありませんが、被害者の方に生じている様々な障害を説明する裏付けとなります。

また、自覚されていない障害が検査によって判明し、リハビリや周囲による支援に役立つことも少なくありません。そういう意味で、出来る限り検査はしておくことが望ましいです。

ただ、被害者自身がどうしても検査に前向きになれないこともよくあることです。周囲としては、気長に、本人と対話しながら1つ1つ進めていく意識が重要です。

 

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