データ改ざん、耐震偽造。欠陥住宅だった場合の対応

あなたのお家は大丈夫?

 三井不動産グループが2006年に販売を始めた横浜市都筑区の大型マンションで、施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが13日分かった。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている。

2015年10月14日付 日本経済新聞 朝刊 「虚偽データで基礎工事 大型マンション傾く 建築基準法違反の疑い 横浜、三井不系が販売 」

近日この問題がニュースになっていますね。以前にも某建築士による耐震偽装問題がニュースになりました。このように、生活の基礎となる住宅の安全性は絶対的に保障されるものではないという状況になっています。今回の問題のように建物自体が傾斜しているなど素人目にみて欠陥現象がわかるような場合もありますが、住んでいる限りでは実際に地震が起こるまで判明し得ないような欠陥がある場合もあります。そして、大きな欠陥であれば報道等により知り得ますが、欠陥の程度や欠陥が生じた原因によってはあまり報道されないというような場合もあり得るでしょう。

そこで、そもそもどうして欠陥住宅が建てられてしまうのかの法制度的な問題を見た後に、欠陥が判明した際の居住者の対応を見ていくことにします。

どうして欠陥住宅が建てられてしまうのか

欠陥住宅被害の件数は非常に多いと予測されています。というのも、東京地裁では、建築瑕疵紛争事件について専門の部を設置し、適正且つ迅速な審理手続の研究と実践がなされていることからして、対応件数の多さを垣間見ることができるからです。

このように増加傾向にあると思われる欠陥住宅被害ですが、建築業者等の従業員や下請け、会社社長等に問題があるのかと言われれば全く否定することはできないかも知れませんが、一般的に増加傾向にある以上単に個人の問題に帰結できるような状況にありません。建物を建てる際の法制度に何らかの問題があるのではないか、ということが考えられます。(もちろん、法制度に問題があったからといってもそれを理由に業者側が居住者に対して負う責任が免責されるようなことにはなりません。多くの場合、建築業者側の不正行為が原因になっていることには違いがないからです。)

どのような点に問題があるのかと言えば、住宅建築に際してのチェック体制が貫徹されていない点にあるのではないかと考えられます。つまり、不正があったとしてもそれを発見できるような仕組みになっていないということです。また、建築士が名前だけを貸して検査等を済ませようとする名板貸し建築士というような問題もあります。

このような問題を回避すべく耐震偽造問題以降数度の改正を重ねてチェック体制の強化がなされてきました。また、建築士に対して定期講習の受講が義務づけられたほか、違法行為に対する罰則強化などもなされています。

チェック体制の強化など、平成26年改正の内容についての詳細はこちらをご覧ください。(国道交通省発行 平成27年6月1日から 建築確認の申請手続きが 変わります!

まだ全貌が解明されたわけではないので正確なことはいえないのですが、今回のマンション傾斜問題はデータ改ざんが原因の一つのようです。このデータ改ざんについて改正を含む現在のチェック体制で対応するのは厳しい面があったようで、イタチごっこになりますが対応するための法改正が待たれるところです。(2015年10月18日付 産経新聞『マンション傾斜 見抜けなかった「複合偽装」「施工データすべて精査は無理」』

さらに欠陥住宅問題を複雑化させている事情として、下請けの存在があります。建築主の指揮監督命令が下請けにまでは届いていたとしても下請け業者がさらに下請けに出していた場合、監督下に完全に置くことは難しくなります。誰に責任があるのか、またどこで問題が生じたのかがわかりにくくなるのです。マンション傾斜問題についても、違法行為があったのは孫請け(下請けの下請け)企業においてのことのようです。

欠陥住宅から逃れる術

現在居住している住宅が建築基準法改正後の住宅であるという方のほうが少ないでしょうし、もし改正後の住宅であったとしてもそれで対応できているかは不明なところです。したがって、自分の家が欠陥住宅であるといった可能性は潜んでいるということになります。そこで、実際に自分が住んでいる家が欠陥住宅だった場合どうすればいいのか対応の仕方をみていくことにしましょう。

まずは相談しよう

自分の家に欠陥が疑われた場合、欠陥住宅問題について詳しい弁護士、にまずは相談すべきでしょう。建築技術的側面については弁護士も詳しくはわからない方がほとんどでしょうから信頼のできる建築士とタッグを結成して問題に取り組むことになります。一般の方にとっては、建築技術的なことも詳しいという方は稀でしょうし、建築基準法を中心とした関係法令についても詳しいといえることは珍しいでしょう。

もっとも、欠陥住宅問題について詳しい弁護士というのも多くはいません。建築技術的側面については専門性の高い知識なうえ、複雑な案件と言えるからです。とはいえ、紛争解決のための欠陥判断の基準に関する考え方や、訴訟における審理方式等の議論が活発となっているため、以前に比べれば解決が困難な問題ではなくなりつつありますが、なお被害回復が困難なケースが多いことも否定できません。

交渉の席へ

弁護士に依頼する場合や自分で解決する場合であっても、まずは建築業者等と交渉のテーブルにつくことになるでしょう。事案の重大さによっては建築業者側から説明会が開催されたり、被害回復についての方針が説明されたりする場合もあります。

ADR(裁判外紛争解決手続)

交渉が上手くいかない場合であっても、裁判以外に第三者の力を借りて被害を回復する手立てはあります。これをADRと呼びます。

①建築基準法に基づき、国又は都道府県に設置された建築工事紛争審査会による調停・仲裁制度、②各地の弁護士会によるあっせん・仲裁手続、③住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に基づく建設住宅性能評価書の交付された住宅に関する住宅紛争処理機関等による紛争処理などがこれにあたります。

訴訟提起しよう

以上の手続が上手くいかなかった場合や、上手くいく見込みがそもそもないような場合には裁判所に訴訟を提起して被害を回復することになります。東京地裁・大阪地裁では建築瑕疵紛争事件に関する集中部による調停がまず行われています。この際の被害回復手段としては、契約の解除や損害賠償請求をすることになります。損害賠償のなかで引っ越し費用などを求めることになるでしょう。

欠陥住宅訴訟の実情

いざ訴訟に至ってもここで勝つことは困難な場合が多いのが現状です。欠陥住宅訴訟は、前提として信頼できる建築専門家の協力が不可欠であること、当事者間の契約について契約書の記載内容が不十分など不明瞭な点が多いこと、居住者側でも費用が嵩む上事件が長期化することが特徴としてあげられます。

また、欠陥住宅訴訟そのものも、①欠陥の有無、②損害の有無・金額、③責任主体と責任根拠の主張立証が難しく、結果として訴訟全体を困難なものとしています。最後に、これらの事情についてみていきたいと思います。

①欠陥の有無

床にビー玉を置いたら転がるからこの家は傾いている、欠陥だ!といった旨の主張が居住者から出てくるのは聞いたことがあるのではないでしょうか。確かに、ビー玉が転がるほどの傾斜があれば、居住者としては家が真っ直ぐ立っておらず耐震強度などの点で気になるのは当然です。しかし、傾いていることが欠陥そのものではありません。同様に基礎部分や壁に亀裂が入っているような場合もこれそのものは欠陥にはならないのです。えっ!?とお思いになるかもしれませんが、傾いたり亀裂が入ることには原因があります。この原因が欠陥にあたるのです。傾斜や亀裂はあくまで欠陥が起こした事情にすぎないのです。(「欠陥現象」といいます。)

この原因は何かということを居住者が知ることは非常に難しいです。マンション傾斜問題では建物を支える杭が支持層に届いていなかったことが原因のようです。直接の原因の他にこれが発覚しないようにデータを改ざんし隠蔽していたということが問題となっています。つまり、この問題での欠陥は「建物を支える杭が支持層に届いていなかったこと」が欠陥にあたるのです。

そこで、欠陥とは、取得した住宅が、契約内容に適合していないこと、契約内容通りの性能ないし品質を欠いていることとなります。もっとも、契約内容は契約内容書だけでは明らかにならない場合、つまり不備がある場合が多いので、その場合は建築基準関係法令、住宅金融公庫の仕様書、日本建築学会の建築工事標準仕様書等を、判断資料にすることになります。

これを主張立証することは居住者個人ではなかなか難しいでしょう。弁護士や特に建築士の協力が不可欠ともいえるかと思います。

②損害の有無・金額

欠陥住宅訴訟において何が損害といえるかというと、欠陥を是正し、契約上予定された性能と品質を回復するために必要かつ相当な補修方法の確定と、かかる補修方法に要する費用額を確定する必要があります。立て替えが必要であれば取り壊し立て替え費用相当額が損害となりますし、その他補修工事で済むのであればその費用と言うことになります。そのほかに、補修工事期間中の他の代替住宅賃料、引っ越し費用、欠陥調査費用、弁護士費用が損害として認定されることが多いです。さらには、精神的被害についても慰謝料として認められる傾向にあります。

損害について建築業者側からはこれまで居住してきた事実から居住利益を控除し、建物減価をも控除すべきだとの主張がなされるかもしれませんが、これらは否定すると言うことで裁判実務上決着がついています。

③責任主体と責任根拠

家を建てるには多くの人が携わります。では家に欠陥があった場合に誰がどのような責任を負うのでしょうか。

この点、最高裁は「建物建築に携わる設計者、施工者及び工事管理者は、建物の建築にあたり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である」としています。この建物の基本的な安全性が欠けることとは、居住者等の生命、身体または財産に対するう危険が現実化する可能性がある場合のことを指すとされており、現実に危険が生じている必要はありません。

度々マンション傾斜問題がたとえにあがりますが、報道通りの事実であるとすれば、杭についての欠陥が認められ、建物が2cm程度傾いているに過ぎないかも知れないが、これを放置すれば地震等により倒壊のおそれがあるので、責任が認められることになるでしょう。そして、責任主体としては孫請け会社を始め、建築士に工事管理義務の不履行があり、これを履行していれば欠陥が生じないといえるような場合であれば、建築士にも責任が生じますし、下請けや元請けにも使用者責任等の不法行為責任が認められうるということになるかと思います。

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